コラム

文在寅の「訪日拒否」は、有利な立場を自ら手放す慢心が生んだオウンゴール

2021年07月28日(水)18時12分

しかしながら、だとすれば、その読みは明らかに間違っている。なぜなら、いったん五輪を終えてしまえば日本側には文との首脳会談に応じる理由は何もなくなってしまうからだ。

加えて、菅政権は11月までの間に総選挙を控えており、韓国に対して批判的な世論が大勢を占めるなか、日本政府には韓国側との対話に応じる合理的理由は存在しない。つまり、文政権はそのまま首脳会談に応じていれば得られたはずのポイントを、自ら失ったことになる。

そして、今回の首脳会談拒否は、日本側の選択次第で韓国側に対して大きなマイナスポイントをもたらす可能性すらある。なぜならこれにより、今度は日本側が「対話を拒否しているのは韓国政府だ」と、国際社会にアピールすることが可能になるからである。こうして日本側は、日韓関係の悪化をもたらしているのは文政権だとして、自らが対話に応じないことを正当化することもできる。

2021年7月の韓国政府の選択が、日韓両国が再び攻守の立場を入れ替える分岐点だった――。われわれは何年か後、今回の出来事をそう振り返ることになるのかもしれない。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:したたかなネタニヤフ氏、「最後は思い通り

ビジネス

米半導体ウルフスピード、破産申請へ 債権者と合意の

ワールド

ロシア大統領、ウクライナ戦闘による経済への壊滅的打

ワールド

北朝鮮、米の対イラン攻撃非難 「主権侵害」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 9
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story