コラム

リナ・サワヤマ、イギリスを熱狂させる2つの才能、2つのルーツ【世界が尊敬する日本人】

2021年08月03日(火)12時25分
リナ・サワヤマ

GUS STEWART-REDFERNS/GETTY IMAGES

<新潟県で生まれ、ロンドンで育った新世代のシンガーソングライター。世界中に熱狂的なファンを獲得し、エルトン・ジョンも称賛する。この夏には「イギリス人」の定義をも塗り替えることになった>

2021081017issue_cover200.jpg
※8月10日/17日号(8月3日発売)は「世界が尊敬する日本人100」特集。市川海老蔵、CHAI、猪子寿之、吾峠呼世晴、東信、岩崎明子、ヒカル・ナカムラ、菊野昌宏、阿古智子、小澤マリア......。免疫学者からユーチューバーまで、コロナ禍に負けず輝きを放つ日本の天才・異才・奇才100人を取り上げています。

悪夢のようなデートだ。男性はつまらないことをだらだらとしゃべり、食事のマナーは最悪で、無自覚に侮辱的な発言をしては女性の話を遮る。ついに女性がキレて、黙れと言い放つ。

それはそれでカタルシスに満ちた瞬間だが、リナ・サワヤマ(30)の才能にかかればとてもスタイリッシュで、たまらなく面白い映像になる。

これは彼女のヒット曲「STFU!」のミュージックビデオの一場面。優れたシンガーソングライターというだけでなく、彼女は演技も本物だ。

リナ・サワヤマのヒット曲「STFU!」のミュージックビデオ Rina Sawayama-YouTube


この2つの才能で、サワヤマはイギリスだけでなく世界中に熱烈なファンを獲得している。日本とイギリスの両方にルーツを持つという点も、彼女の重要な一部だ。

新潟県で生まれ、5歳からロンドンで暮らし、ケンブリッジ大学を卒業。日本人であることを生かしたパフォーマンスも多いが、サワヤマは間違いなくメイド・イン・ロンドンだ。

皮肉なことに、彼女が注目を浴びたきっかけは国籍だった。彼女は日本国籍だという理由で、2020年7月に英国籍のアーティストを対象とするマーキュリー賞のノミネート資格がないとされた。

「イギリス人に、足りてない?」と憤慨する見出しが音楽メディアを超えて広がったのは、ちょうどイギリスが人種差別について議論している最中でもあった。

エルトン・ジョンが称賛

もっと単純に考えれば、その年に最もブレイクが期待されるアーティストが受賞候補から除外されるのはばかげた話だ。

2020年4月にリリースしたデビューアルバム『SAWAYAMA』は、音楽専門誌で5つ星を獲得。実験的なスタイル、レンジの広さ、抜群の洗練性が評価されている。

『SAWAYAMA』を絶賛している1人が、(やや意外だが)エルトン・ジョンだ。自分にとって「年間ベストアルバム」だとたたえ、今年4月には2人でデュエット曲「チョウズン・ファミリー」を発表している。

「リナはインターネットと音楽史全体を指先で感じながら育った世代の代表で、古いジャンルや境界線の概念にとらわれず、本物の愛と理解を持って、好きなものを自在に掛け合わせる。聡明で、自信がにじみ出て、果てしなく魅力的なソングライターでありパフォーマー。それが彼女だ」

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ビジネス

エヌビディアが独禁法違反、中国当局が指摘 調査継続

ビジネス

無秩序な価格競争抑制し旧式設備の秩序ある撤廃を、習

ワールド

米中閣僚協議2日目、TikTok巡り協議継続 安保
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story