コラム

カトリックかプロテスタントか......聞くに聞けない北アイルランドのタブー

2021年06月05日(土)14時30分

* * *


北アイルランドの人々には特有のなまりがある。それは「アイルランドなまり」とも「イギリスなまり」とも違う、「北アイルランドなまり」だ。表現しづらいがほとんどのイギリス人が、聞いた瞬間に判別できる。言っていることが分かりにくい訳ではないが、イングランド人にとっては「変に」聞こえる。少々鼻音がかっていて、母音が独特で、音節全体を「飲み込む」ようにしてしゃべる癖がある。たとえば、「Northern Ireland(北アイルランド)」は「ノーン・アイアン」のように聞こえる(彼らはよくジョークとして自分たちのことをこう呼んでいる)。

* * *


興味深いのは、あることにおいては例外的に「統一アイルランド」が存在すること。ラグビーだ。他のスポーツとは違い、北アイルランドとアイルランド共和国は統一チームを結成している。そのため、統一チームがラグビーワールドカップで試合をするときには、2つの国歌を持つチームだけに、どちらの国歌も流れない。代わりに、特別なアイルランドラグビー賛歌が演奏される(むしろ僕はこちらのほうがいい曲だと思う)。

でも、アイルランドの首都ダブリンで試合をするときには、まずアイルランド共和国国歌が流れてからラグビー賛歌が流れるのが伝統だ。どの選手が北アイルランド出身かは一目瞭然。最初の曲は(礼儀正しく立っているが)歌わず、ラグビー賛歌の方では進んで歌っているからだ。

元アイルランド代表主将のローリー・ベストもそうだった。彼は偶然、もう一人の偉大な北アイルランド出身スポーツ選手であるサッカーの故ジョージ・ベスト選手(プロテスタントだった)と同じ名字だ。そしてさらに、下の名前はこちらも偉大な北アイルランド出身スポーツ選手であるゴルファーのローリー・マキロイ(カトリック)と同じだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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