コラム

中国に「無関心で甘い」でいられる時代は終わった

2020年08月04日(火)12時20分

イギリスの世論は長い間、中国に批判的でもなければ中国にあまり注目してもいなかった。結局のところ、中国は僕たちが買う製品を安価に作る国。それに僕たちには既に、弱い者いじめで独裁的な懸念すべき国家がもっと近くにあった(ロシアだ)。人の国で平気で暗殺事件を起こし、人の国の内政に平気で干渉してくるような国だ。

だが、新型コロナウイルスと香港というダブルショックを受けて、世論は変わりつつある。中国は、ヒトからヒトへの感染の可能性を隠したことや、「告発者」たち(自由社会では「精通した専門家」とみなされる)を追い詰めたことに対して責任があるとみられている。移動によってウイルスが他地域や他国に広がることが分かっていた春節の時期に、大勢の中国人民が武漢を出入りして旅行した。ウイルス拡散抑止に失敗したとの非難を拒絶し続ける一方で、その後はコロナ禍の国々にマスクを輸出することで国際社会の責任ある一員を装う中国の狙いは、破綻するだろう。

もしも英政府が2年前に、海外に住む300万人余りに市民権を与える計画を発表していたら、この国は既に人口過密だ、さらなる流入で大混乱が起こる、と激しい非難が巻き起こっていたに違いない。だが今回、海外在住英国民(BNO)のパスポートを持つ香港市民のイギリス居住を認めるとの英政府の表明は、「正しい行動」と歓迎された。旧植民地の自由と自治を支えていた「一国二制度」を中国がほごにするなか、イギリスの人々は傍観しているわけにはいかないと感じたのだ。

ジョンソン英首相は、安易な中国嫌いがイギリスに蔓延する事態は望まないと繰り返してきた。だが、今後の対中関係は、冷戦後のお気楽な思い込み──世界はよりよい所であり、特に気に入らない国家でもあまり関心を払わぬままビジネスはできるしうまく付き合っていける──に基づいて進めることはできないかもしれない。

<2020年8月11日/18日号掲載>

【関連記事】イギリスの香港市民受け入れはブレグジット効果
【関連記事】エジルのウイグル弾圧批判が浮き彫りにした、中国とプレミアリーグの関係

【話題の記事】
「英王室はそれでも黒人プリンセスを認めない」
カナダで「童貞テロ」を初訴追──過激化した非モテ男の「インセル」思想とは
中国は「第三次大戦を準備している」
男性190人をレイプした男、英で終身刑に その恐るべき二面性

2020081118issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年8月11日/18日号(8月4日発売)は「人生を変えた55冊」特集。「自粛」の夏休みは読書のチャンス。SFから古典、ビジネス書まで、11人が価値観を揺さぶられた5冊を紹介する。加藤シゲアキ/劉慈欣/ROLAND/エディー・ジョーンズ/壇蜜/ウスビ・サコ/中満泉ほか

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

「ラブブ」人気で純利益5倍に、中国ポップマート 1

ワールド

アングル:トランプ氏も称賛、ゼレンスキー氏の「黒ス

ワールド

日本企業、アフリカ成長にらみビジネスアピール TI

ビジネス

米財政赤字、今後10年でCBO予測を1兆ドル上回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 6
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story