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アングル:トランプ氏も称賛、ゼレンスキー氏の「黒スーツ」に込められた工夫

2025年08月20日(水)13時56分

 8月19日、ウクライナのデザイナー、ビクトル・アニシモフ氏がゼレンスキー大統領のために作った新しい黒いスーツには、小さな「工夫」が施されていた。写真は18日、このスーツを着てトランプ米大統領との会談に臨むゼレンスキー氏。ホワイトハウスで撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)

Anastasiia Malenko

[キーウ 19日 ロイター] - ウクライナのデザイナー、ビクトル・アニシモフ氏(61)がゼレンスキー大統領のために作った新しい黒いスーツには、小さな「工夫」が施されていた。戦争勃発後、ゼレンスキー氏が軍との連帯を明らかにするために好んで着てきた軍用のジャケットに比べて、民間用スーツの仕立てにより近づけるよう、背中部分にベント(切れ込み)が入れられたのだ。

アニシモフ氏はロイターにデザインの手直しについて「和平に向けたわれわれの願いで、ゼレンスキー氏の制服に何か民間服の要素を付け加えれば、幸運を呼ぶお守りになるとの考えだ」と語った。

そして実際にゼレンスキー氏が18日、トランプ米大統領とホワイトハウスで会談した際、この「お守り」が効果を発揮し、トランプ氏はこのゼレンスキー氏のスーツを褒め称えた。

2月に開催された両者の会談は公の場で口論に発展する散々な展開になったが、トランプ氏が反発した原因の1つは、ゼレンスキー氏が着用した暗い色の軍用ジャケットにあったとされる。

アニシモフ氏は2月の会談の映像を見て打ちのめされた気持ちになったと明かす。ゼレンスキー氏が受けた仕打ちは単に本人だけでなく、ウクライナ国民に向けられたと受け取ったからだ。

「彼らはわれわれがどんなに息も絶え絶えで生活しているかを理解していない点に、ちょっとした絶望感があった」という。

2月にゼレンスキー氏がスーツを着てこなかった理由を問い質した記者も、今回は「素晴らしいスーツ姿ですね」と賛辞を送った。

ただアニシモフ氏は今回、ゼレンスキー氏の服装への批判ないし賞賛を求めたのではなく、ゼレンスキー氏が確実に堂々と見えるようにしたかったと強調した。

その上で「われわれが勝利すれば、そして勝利するつもりだが、誰のスーツを着ていたかは問題にならなくなる」と付け加えた。

<緊急の電話>

ゼレンスキー氏が18日に着用した黒いスーツは当初、24日のウクライナ独立記念日に向けた衣装案として同じデザインの色違い(ネイビー)とともに提示された。

その後デザインチームが背中のベントを巡る方針を話し合う中でアニシモフ氏が修正のため持ち帰り、袖の調整に取りかかる前の16日、政権側から緊急の電話が入った。大統領が米国訪問用にそのスーツを必要としているという内容だった。

アニシモフ氏がゼレンスキー氏のスタイル変更を手がけたのはこれが初めてではない。

2000年代初頭、当時コメディアンだったゼレンスキー氏と彼のチーム「クバルタル95」は、コメディ大会での成功を経て、ウクライナのテレビ画面上で自分たちの存在感を確立しようとしていた。

スタイル変更の過程は緩やかで、黒いTシャツを最初に、白いシャツとネクタイ、最後は番組中にチームが着用するスーツになった。

アニシモフ氏によると、ゼレンスキー氏とは5年余りも音信不通だったものの、今年1月に以前のスタイリングに関係した共通の知人を介して連絡があり、大統領のための「カプセルコレクション(限定的な特別衣装)」を生み出す構想が浮上した。

このコレクションの全てのアイテムに汎用性を持たせるため、アニシモフ氏は軍服を着想の出発点にしたと語る。

「北大西洋条約機構(NATO)首脳会議ないしトランプ氏や欧州指導者との重要な会談のために特別に(スーツを)仕立てたとは言えない」と述べ、ゼレンスキー氏は細かい違いがあるがよく似ているジャケットを5着持っていると説明した。

その後ゼレンスキー氏は、アニシモフ氏がデザインした衣装を身に着け、4月に当時のローマ教皇フランシスコと会見し、6月にはNATO首脳会議に出席。いずれの場でも、2月に生じた米国との亀裂を修復する取り組みを後押ししてくれた。

ロイター
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