コラム

賞味期限切れの「ご隠居」政治家が集う、EUよさらば

2020年02月14日(金)17時30分

EUはご隠居政治家たちの集う老人ホーム? Yves Herman-REUTERS

<欧州委員は加盟各国が参加するプロセスで「指名」されるのだが、英国民はここに何やらいかがわしいにおいを嗅ぎつけてEUを嫌悪する>

あらゆる政治家のキャリアは失敗で幕を閉じる――イギリスではそういわれている。なぜなら政治家は、ある時は絶好調の波に乗り(国民に人気で、政治家仲間からは尊敬され、政敵からは恐れられる)、そして次の瞬間には「過去の人」に成り下がる。

「鉄の女」サッチャー元首相が身内の保守党からあっけなく見放されたことや、「テフロン・トニー」と称されたブレア元首相が今や国民から軽蔑されていることや、保守党を23年ぶりの単独過半数に導いたキャメロン元首相が1つの大誤算のために(イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票を実施した上、敗れたことだ)忘却のかなたに押しやられているのを見れば分かる。

残酷だが、これは民主政治には欠かせない側面だ。「政治家を失脚させられる力」は、この政治体制の中核となるもの。ある日突然、屈辱的に政治生命を絶たれるのではないかという不安は常に政治家に付きまとうべきであり、政治家が国民への奉仕者であっていつでも取り替え可能なことを彼らに思い出させる。

EUは、この方程式を変えている(イギリスは1月31日、ついにEU離脱を実現した)。EUの権力者たちは健全なる民主主義の圧力とは無縁のようだ。それどころかEU本部は、各国国内で「終わった」政治家に安全な聖域を提供する......彼らがEUの目指す欧州統合プロジェクトに都合よく取り組んでくれる限りは。

ニール・キノックの例を考えてみよう。1983~92年に労働党党首を務めたキノックは、当時の与党・保守党の不人気ぶりにもかかわらず2度の総選挙で敗北。その後はヒラの議員人生のはずが、95年に欧州委員会委員に指名されたことで、奇跡的に状況が好転した(99~2004年は副委員長も務めた)。

マクロンは未来のEU大統領?

この職務で英首相よりも高額の報酬をもらい、課される税率は英国内より低く、潤沢な年金や特権を得られた。そこではかなりの権力を振るい、煩わしい有権者に悩まされることもなく、メディアの詮索もきつく受けなかった。好都合なことに彼の妻グレニスも94~09年に欧州議会議員を務めた。高給でありながら英議会議員に比べれば実際の責任は軽い職務だ。だからキノック一家はEUの庇護の下、素晴らしくカネに困らない生活を謳歌した。

EU本部が、賞味期限切れのご隠居政治家の快適な老人ホームになっている、と言われるゆえんはここにある。もちろん、EUに適応し、EUの目的のために尽くす意志がある者でなければだめだ。清廉潔白さや有権者の評価はどうでもいい。スキャンダルで2度大臣を退任させられた後、04~08年に欧州委員会委員を務めたピーター・マンデルソンがいい例だ。「プリンス・オブ・ダークネス」というニックネームが、イギリスでの彼の評判を物語っている(裏で巧みに情報操作を行うことで有名だったから)。この比較的短期のEU勤めで彼は、65歳以降は生涯にわたり年間3万1000ポンドの年金を得られるようになった。EUの利益に反することを何一つしません、という条件付きで。これは法律上のいわゆる「非難禁止条項」、あるいはメディアで「金の手錠(特別優遇措置)」と呼ばれるものであり、いずれにしろ公人としてEU支持姿勢を示してもらうための奨励金のようなものだ)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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