コラム

イギリスの薬物汚染を加速させる「カウンティ・ラインズ」の暗すぎる実態

2019年08月03日(土)17時45分

彼らは地元を越えて国じゅうにドラッグを持ち出し、昔よりもずっと容易にハードドラッグが入手できる状況をつくっている。薬物依存の増加は、他の犯罪の増加とも密接に結びついている。中毒者が薬物を買うカネを手に入れるための強盗や窃盗、そして薬物で暴力的になった人々が起こす暴行事件。カウンティ・ラインズの商売はギャングに利益をもたらし、さらなる犯罪行為の資金源となり、彼らがより多くの武器を購入し、新たなメンバーを勧誘するのに役立つ。ここ数年で、ロンドンではギャング関連の殺人事件が大幅に増加している。

ロンドンの警察はほとんどこの問題に対処できていないが、彼らが1点強調するのは、カウンティ・ラインズで使われる「運び屋たち」自身も犠牲者であることがしばしばあるのだということ。ギャングは自分たちに代わって危険な仕事を実行するようティーンエージャーを訓練し、手始めにプレゼント(すごい、新品のスニーカーだ!)をあげたりして愛情をかけてやるが、通常、最後には暴力と命令で言うことを聞かせる結果になる。これを、現代の奴隷制と呼ぶ人もいる。若者たちはほとんど何の見返りも得られないのに違法行為を強いられ、身の危険を冒さざるを得なくなる。彼らは教育の機会も普通の生活を送る機会も奪われる。

僕の家から1マイル足らずの場所で男を殺した、17歳の少年の状況がどうだったのかは知らないが、ひょっとすると彼は夜の路地裏で強盗団に立ち向かうことよりも、手ぶらでロンドンのギャング団のもとに帰ることのほうを恐れていたのかもしれない。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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