コラム

「サマータイム先進国」イギリスから日本への忠告

2018年09月14日(金)15時15分

そうなると北のほうの国々で問題が起きる。北に行くほど、昼夜の長さは季節による変動が大きくなる。冬は昼が極端に短くなり、夏は極端に長くなるのだ。ヘルシンキやエディンバラといった都市では、時間の大幅な調整が必要になるだろう。

ヨーロッパ諸国は、一般に思われているよりかなり北にある。ロンドンはイギリスでは南部だが、北海道の稚内より北だ。エディンバラはロンドンから、さらに約650キロ北にある。

横たわる文化的な問題

ロンドンで人気の「サマータイム固定時間」を採用した場合、真冬のスコットランド北部では朝10時まで日が昇らない。そうなれば、酪農家は乳搾りのために日の出の4〜5時間前に起きなくてはならない。ロンドンのあるイギリス南東部で暮らす2000万人と同等の発言権を、スコットランドの数千人の酪農家に与える必要がありそうだ。時間は政治的な問題でもある。

同時に、文化的な問題でもある。日本は戦後の占領時に採用されたサマータイムを52年に主権を回復するとすぐに廃止した。日本の労働者は明るいうちは退社しにくいため、サマータイムは労働時間を長引かせるだけだとも言われる。

今は東京オリンピック期間の暑さ対策として、サマータイムの導入が検討されているようだ。イギリスにとって第一次大戦がサマータイム導入を後押ししたのと同じく、オリンピックが日本を後押しするかもしれない。

当然の話だが、サマータイムは国と国民に恩恵がある場合にだけ採用してほしい。オリンピックの参加選手や観戦客のためだけでなく、日本の市民のワーク・ライフ・バランスを向上させる一助になってほしい。

今こそ、ウィレットの理想に立ち返るべきだ。

<本誌2018年9月18日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、リオ・ティントなどの環境

ビジネス

TOPIX採用企業の今期予想は0.2%の減益 米関

ワールド

武装組織クルド労働者党が解散決定、トルコとの40年

ビジネス

オリックス、発行済み株式の3.5%・1000億円を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 3
    「隠れ糖分」による「うつ」に要注意...男性が女性よりも気を付けなくてはならない理由とは?
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story