コラム

「サマータイム先進国」イギリスから日本への忠告

2018年09月14日(金)15時15分

スコットランドの酪農家は日の出の4~5時間前に起きることに Jeff J Mitchell/GETTY IMAGES

<1916 年に導入したイギリスでは欠陥のほうが目立つ――日本が導入するなら五輪のためでなく市民の恩恵をまず考えるべき>

ウィリアム・ウィレットの名を知っているイギリス人は多くないが、彼が考え出した制度は100年後の今も、イギリス人の生活に影響を与え続けている。

そこそこ裕福な住宅建築業者で乗馬とゴルフをこよなく愛したイギリス人のウィレットは1907年、夏に時計を進めることを思い付いた。理由は大きく2つあった。

1つ目はライフスタイル。夏に時計を進めれば、仕事を終えても日没までにまだ時間がある。散歩を楽しめるし、ゴルフを途中で切り上げなくて済む。2つ目は経済的な理由。節電になるから、国も市民も経済的に大きな恩恵を被る。

推進力になったのは、2つ目の理由だった。第一次大戦が勃発し、石炭不足が懸念された。そこでイギリスは1916年、サマータイム導入に踏み切った。以来、イギリスはこの制度を続けている。

サマータイムの理屈は簡単だ。夏はまだベッドにいる間に日が昇り、オフィスを出る前に沈む。時計を進めれば、明るいうちの1時間が仕事の後に確保できる。

これがイギリス人にとってのサマータイム体験だ。日が沈む前に公園を歩いたり、スポーツをしたり、パブのガーデン席でくつろいで仕事の疲れを癒やす。

だが、物事にはうまくいかない部分が必ずある。仕事の予定がきっちり詰まっている人は、サマータイムを「旅行しない時差ぼけ」と呼ぶ。約束の場所に1時間遅く(あるいは早く)やって来るうっかり者も発生する。

最も厄介なのは、腕時計、柱時計から、調理器のタイマーやテレビの録画予約システムまで、あらゆる時計を進めないといけないことだ。しかも半年後には、これら全部を元に戻すのだ。

おまけに、夏時間の開始日と終了日は年によって違う。混乱を避けるために、日曜の未明と決められているからだ。

いまEUは、加盟諸国のサマータイム制度の廃止を検討している。その場合、どの時間帯に固定するかが問題になる。協定世界時(UTC)にするのか、それともUTCを1時間ないし2時間進めた「サマータイム固定時間」にするのか。現時点では「一年中サマータイム」を支持する人が多いようだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米デルモンテ・フーズ、米破産法の適用申請 売却プロ

ワールド

EU、米との通商協定で主要分野の関税即時免除を要望

ビジネス

焦点:25年下半期幕開けで、米国株が直面する6つの

ワールド

日米豪印、4月のカシミール襲撃を非難 パキスタンに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 7
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 8
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story