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コリン・ジョイス Edge of Europe
日本人彫刻家の氷のハートに魅せられて
僕は滅多にタイムズスクエアに行かない。周り道をして避けるぐらいだ。例え行くことがあっても、カメラを取り出して写真を撮ることはない。タイムズスクエアで写真を撮るという行為は、いかにも観光客的で僕には耐えられない。
でも先日の暖かい日に、思い立ってタイムズスクエアに写真を撮りに行くことにした。すぐに出掛けなければ、僕が出掛ける理由は消えてなくなってしまうのだ。
ニューヨークに住み始めて間もなく、僕は岡本武夫という氷の彫刻家に取材したことがある。クイーンズにある彼のスタジオで話を聞き、「世界が尊敬する日本人」の記事を書いた。今年のバレンタインデーにタイムズスクエアに設置された氷のハートを作ったのが岡本だと知って、溶けて水になってしまう前に見ておきたかった。
岡本への取材では、2つの話が印象深かった。1つは、彼が趣味で氷の彫刻を始めたときの愉快な話。彼はその当時アラスカで寿司職人をしていたのだが、アラスカには彫刻に適した氷がない、という。もちろん自然の氷ならいっぱいあるのだが、純度や質が彫刻には適していない。とはいえ物を冷やしたりする用途には十分なので、どこにも氷が売っていない。岡本は何キロも先の湖まで車を飛ばし、凍った湖の透明な氷を切り出して、家に持ち帰ったという。他の都市ならどこでも氷の塊が売っているのに、アラスカにはないなんて!
もう1つは、岡本が氷の溶ける点に美学を見い出していたことだ。作品が溶けてしまうのは寂しくないか、とよく聞かれるそうだが、岡本はそうは思わない。氷が溶けることで、彫刻の形は変化していく。人間が手を加えたものではなく、自然が作る美しいラインが現れる。氷は溶けることでより美しくなるという。
岡本が作った氷のハートを写真に収めた人はどれくらいいたのだろう。100万人とはいわずとも、数万人はいたはずだ。カメラを手にタイムズスクエアに立った僕は、喜んでその1人になった。
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