コラム

仏ル・モンド紙が指摘した東京五輪「変異株の祭典」、「鉄の癒着三角形」とは

2021年05月12日(水)12時54分

そして、いよいよ問題の箇所である。そのまま引用しよう。


3月末の緊急事態解除前から新たな伝染の波が始まるまで、日本は平均してパンデミックを封じ込めてきたようで、2020年には死亡率の低下を記録するほどだった。

しかし、まだ確定していない防止策にもかかわらず、世界中から8万人近い外国人が列島の複数の場所に集まることは、オリンピックを「変異株の祭典」にしてしまい、感染を加速させる危険性がある

そして、何千人もの医療関係者を大会関係者のために配置する対策が計画されているが、この施策は、医療スタッフが不足している状況では、国民に納得させるのは難しいと予想される。

中国が日本をあざ笑う?

さて、なかなか面白いのは、「なぜこうなっているのか」という同紙の分析である。


なぜこのような健康上、政治上のリスクを取るのだろうか。

「約束を守るために」と政府は主張している。 立派であり、国の誇りの問題も背景にある懸念がある。

それは、オリンピックの開催を断念することは、1940年の東京オリンピック(戦争のため中止)を不愉快にも(残念にも)思い起こさせることであり、中国に対しては面目を失うことになりかねない。中国は2022年初頭に冬季オリンピックを開催し、隣国の失敗をあざ笑わないことはないだろう。

1940年の東京オリンピック中止は、引き合いには出されるだろうが、それほど「不愉快」とか「残念」などと、日本人が考えるとはあまり思えない。逆に「外国ではこういう見方をする人々がいるのか」と、参考になるところである。

それより「なるほど」と思わせるのは、中国のほうである。あの国の政治なら、自国の成功を際立たせるために、日本を引き合いに出すことはしそうである。

確かに、中国の全体主義体制は、コロナ禍を抑えるに一役買ったのは間違いない。しかし、それを日本と比較しながら世界中に宣伝されるのは、中国の非民主主義体制のプロパガンダに日本が貢献するようで、嫌な気持ちがしないというとウソになる。

鉄の癒着三角形とは

同紙は、菅義偉政権の頑固さは、主に金銭的な利益が問題になっているからだという。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story