コラム

トランプ政権下での言葉狩りで「過去の歴史は改ざん」...アメリカの新しい現実を理解しよう

2025年04月08日(火)11時21分

【文化の狭間のグローバル経済】

こうした変化が企業活動に影響を及ぼさないはずはない。目立ったところでは「気候変動のない世界線」を反映して、アメリカの主要金融機関が脱炭素を目指す金融機関の国際的枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退していた。2カ月遅れで日本国内の金融機関もそれに追随した。

金融で始まった変化はじょじょに他の産業にも広がると考えた方がよいだろう。製品やサービス、利用規約などから前項にかいたNGワードが消える。SNSのモデレーションはすでに緩和されている。ネットワークの仕組みも変化する可能性が高い。アメリカと中国という二大国が新しいネットワークの仕組みを推進するようになればこれを無視できる国はほとんどない。


誤解がないように説明すると、ネットワークの標準仕様は技術的である以上に政治的である。2021年の記事で紹介したように、「ネット上のガバナンスは、アメリカを中心とする「自由で開かれたインターネット」を主張するグループと、中国やロシアなど「サイバー主権+統制されたインターネット」を主張するグループの二つに分かれてきた」のである。

しかし、2018年の時点ですでに「自由で開かれたインターネット」を標榜するグループが「サイバー主権+統制されたインターネット」に接近しており、多くの識者が両者が折り合いをつけてゆくようになることを予測している。

「サイバー主権+統制されたインターネット(ただしプラットフォームには自治権がある)」といった形にアメリカが移行するのは時間の問題だろう。この変化はネットワーク関連の製品全般に影響を及ぼし、同時に多数の管理、監視系システムもこの標準を取り入れることになる。今日においてネットワークはあらゆるものに組み込まれており、自動車や家電もこの標準の影響を受けることになる。

国家と巨大プラットフォームが統制するネットワークを基盤とした社会が待っている。現時点で社会基盤となっているSNSが巨大プラットフォームに寡占されている現状を考えると、短期間かつ円滑に変化は進むだろう。

【国家と犯罪ネットワークがシームレスにつながる世界】

中国やロシアでは国家と犯罪ネットワークがシームレスにつながっており、相互にメリットを享受している。

最近公開されたユーロポールのレポート「The changing DNA of serious and organised crime」では、サイバー攻撃、マネーロンダリング、合法企業活動の悪用、制裁回避、暴力・武器密売などさまざまな面で連携しており、相手国の法の支配を脅かし、社会への信頼を毀損していると指摘している。その結果、相手国への軍事行動を伴わないハイブリッド脅威として有効に機能するのだという。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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