コラム

「偽情報・誤情報」研究が直面する5つの課題

2024年12月29日(日)07時38分

課題1 偽・誤情報の定義が曖昧で共有されていない

最初から情けない話しだが、この分野の言葉の定義は曖昧で共有もされていない。


実際に150人の専門家を調べたところ、バラバラであることがわかった。ふつうに解釈するなら「偽・誤情報に関する調査研究の対象はそれぞれ異なる」ということになり、共有も議論も成立しないことになる。

newsweekjp_20241228221918.png

余談だが、偽・誤情報そのものは問題ではない、と私は考えており、同じことを主張する専門家もいる。理由は簡単で、科学や情報は常に更新されるものだからである。

つまり、いま正しくないと言われていることが、のちに正しかったことがわかることもある。冤罪が晴らされることもあれば、未検証だった科学理論が検証されることもある。

昔、アメリカが世界中を監視、盗聴していると言ったら陰謀論と言われただろうが、スノーデンが機密文書を公開して、それは誤りではなかったことがわかった。偽・誤情報の存在を悪であると決めつけることや、いまの判断尺度で判断することは、新しい発見や真実を埋もれさせてしまう。

世の中には埋もれさせていい偽・誤情報と、埋もれさせてはいけない偽・誤情報があると考える人もいるかもしれない。しかし、その判断はあくまで現時点のものでしかない。その判断の根拠になる科学的知見は更新されるし、文化や思想の変化で評価が変わることもある。そう考えると、偽・誤情報がある方が正常な状態と言ってよいだろう。

また、ナラティブやプロパガンダには「偽」や「誤」の要素のないものがある。偽・誤情報ではないものも同じように攻撃に利用されている以上、偽・誤情報だけを特別扱いする必要はないはずだ。

「偽・誤情報」の問題の本質は「偽」や「誤」にはない、と考える方が妥当だ。なぜか多くの専門家は、「偽」や「誤」の要素のないものも偽・誤情報対策の反中に入れることでこの議論を回避している。特に、真偽判定を重要な課題と考えている日本の一部の官公庁にとっては絶対に回避しなければならない話題だ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フランスのコンテナ船がホルムズ海峡通過、所有者変更

ワールド

政府内に省エネ呼びかけ案、エコ運転など「ナッジ手法

ワールド

世界食料価格、中東紛争で上昇 肥料コスト高も影響

ワールド

ウクライナ軍、ロシアの攻勢阻止 前線は良好=ゼレン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 5
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 8
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 9
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story