コラム

中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布される5つの言説

2024年10月30日(水)20時12分

彼は前項であげた、「沖縄県の米軍基地への反対」、「沖縄(琉球)独立の主張」、「中国と琉球の交流」、「台湾は中国の一部分という主張の支持」を訴えている。

彼にはWeiboで124,000人のフォロワーがおり、辺野古基地移転反対の署名を20万人以上から集めたこともある。国連で演説を行うという国際的な活動も行っていて、2019年には沖縄からすべての米軍基地の撤去と、独立を求める団体「琉球和平联盟」を設立した。


ハワイ、アラスカ、西パプア、カタルーニャ、カシミールなど、独立運動を行う他の地域との連帯も表明している。アメリカの親中NPOのコード・ピンクやノー・コールド・ウォーなどとも関係があり、国際的に活躍している。

最近では「占領された沖縄」というドキュメンタリー映画を製作した。予告編がYouTubeにアップされている。

映像の中で彼は沖縄の人々に立ち上がることを訴えているが、言語はすべて英語となっている。注目すべきは予告編1分32秒で映される「国連勧告」だ。2008年以降、国連は日本に対して沖縄に住む人々を先住民と認めるべきであるという勧告を6回出している。外務省はこれに対して、先住民という認識はないと対応している。

私は専門家ではないので、どちらなのかはわからないが、仮に国連の主張を日本政府が認めた場合(ないと思うが)、言語の保存など必要な措置を執らなくてはいけなくなるし、不当に支配しているという指摘も出て来そうだ。

そして、軍事施設は撤去しなければならなくなる。

Rob Kajiwaraの主張の多くは、沖縄県民の多数が願っていることではなく、これもまた日本や沖縄と離れたところで進んでいる事態だ。

中国語での拡散、ハワイ、アラスカ、西パプア、カタルーニャ、カシミールなどとへの連携の呼びかけ、英語でアメリカ在住の親中派インフルエンサーを使った米国と国連での活動を考えると、前述のような中国国内の世論操作や日本へのゆさぶりと分断に加えて国際的な世論の喚起を狙ったものと考えられる。

そして、沖縄認知戦はこの地域における中国の戦略的な意図と連動していると解釈できそうだ。その中でも日本にとって身近で大きな問題は台湾併合だ。

台湾併合

現在のところ、ごく一部をのぞいて当事国に有事を望んでいる勢力はない。非軍事的手段による併合の可能性が高く、それは和平協定のような形を取ると予想されている。

ただし、非軍事的手段だからといって、軍事的な緊張がなくなるわけではなく、むしろ逆で軍事的緊張は台湾併合に向けて非常に高いレベルまで上がってゆく。

中国にとっての認知戦は、「軍事的優位を政治的勝利に結びつける」ことであり、アメリカがベトナムやアフガニスタンで軍事力で優位にありながら政治的勝利を得られなかったことから教訓を得ている。

ロシアが行っているデジタル影響工作に比べると異なる点がいくつかある。大きく違うのは「正当性」の主張だ。昔風に言うと、「大義」を示すことが重要とされている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story