コラム

暗号通貨が変わる? デジタルドルの衝撃──バイデンの大統領令の意味

2022年03月18日(金)16時43分

既存の暗号通貨に与える影響

世界のCBDCをアメリカがリードするという方針と、現在の暗号通貨のあり方は異なる。また、アメリカが金融をリードするということは、世界に流通するデジタル資金量の多くをデジタルドルが占めることを意味する。逆に言えば、それ以外の暗号通貨の流通量を抑えるということになる。

そのため最悪の場合、期限を設けてそれ以降はデジタルドルとの交換を法律によって禁止することも考えられる。より柔軟な方法としては、デジタルドルとそれ以外の交換情報が全てアメリカ政府に自動的に把握されることなどが考えられる。いずれにしてもかなり不自由になるし、資金移動に不審な点があればすぐに調査されることになるだろう。既存の暗号通貨が持つオープンさや秘匿性にはデジタルドルの登場がマイナスに働くことは間違いない。

デジタルドルで変わる世界

大統領令および公聴会のいずれでも、民主主義的価値とプライバシーの重要性が指摘されていた。特に公聴会では、中国のように通貨を通した監視を行うことは、政治によって通貨に色がつくのでよくないとしている。

しかし、デジタルドル導入の目的のひとつは経済制裁という外交手段の威力を強めることだし、民主主義国(アメリカが認めるという但し書きつき)以外を排除するのは明らかに政治的である。アメリカが民主主義を口にする時は、アメリカの価値観を主張しているのであって恣意的に使われている。近年では対中国の文脈で使用されることが多い。

CBDCは国家間の競争において強力な武器となる。デジタルドルとデジタル人民元の覇権争いになるのは間違いなく、これまでにはない戦いとなるだろう。そして、既存の暗号通貨にはマイナスのインパクトになる可能性が高い。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

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