コラム

鎖国化する経済とサイバー安全保障 3大国に喰われる日本

2021年05月20日(木)17時30分

グローバリゼーションは、「自由で開かれた」社会であることを標榜しつつ、自国は閉鎖的になる......metamorworks-iStock

世界の3大国アメリカ、中国、インドで進む「閉鎖経済」化

2030年に世界のGDPトップ3となるアメリカ、中国、インドに共通する要素として、自給自足や閉鎖経済(self-sufficiency、autarky)を上げた「The New Age of Autarky」という記事がForeign Affairs(4月26日)に掲載された。

グローバリゼーションと相反するように思えるが、この3カ国は近年、その傾向を強めているという。

この3カ国は世界の中でも人口が多く、世界のGDPのおよそ60%を占めている。他の主要国と異なり、3カ国は最近10年間GDPを増加させ、貿易収支を改善している。もちろん、これらの国々がグローバリゼーションを進めてこなかったわけではない。アメリカは2011年まではグローバリゼーションを進めて、GDPの31%が海外からのものだった。しかし、その後減少に転じ、現在は27%だ。新大統領バイデンの方針を見る限り、さらに減少すると考えられる。

中国にとって経済的自立は目標のひとつだった。過去に何度も他国に蹂躙され、搾取された過去を持つ。そこから自立の道に進んだ。

インドは1700年代には世界のGDPの4分の1を占めていたが、その後イギリスによって搾取され、産業基盤を毀損された。1947年の独立後、自立の道を進み、2014年に首相となったモディはアメリカと中国の技術や投資を利用して、新しい閉鎖経済化を進めている。

近年の閉鎖経済化の進展には、安全保障上の理由が大きい。アメリカは台頭する中国の経済と技術を抑え込むために知財管理を強化し、中国を排除したサプライチェーンを作ろうとしている。安全保障を脅かす可能性のある中国製品がインターネットの基盤に食い込むのを阻止するためだ。

中国は各種施策で自前の技術による閉鎖経済を目指している。すでにいくつかの分野ではアメリカをしのぎ、残る分野も急速に成長していることが、アメリカ国防総省の「Military and Security Developments Involving the. People's Republic of China 2020」でくわしく紹介されている。

インドにおいても安全保障上の懸念が技術革新を後押ししている。これまで中国を中心とした海外からの投資によってIT企業が成長してきたが、充分な競争力を持つにいたった現在は海外からの影響を抑制し始めている。

閉鎖経済化を支えるのは巨大内需と巨大労働市場

中国とインドはどちらも国内市場が巨大であり、労働市場も大きい。そして人材のモビリティは高く、しかも組織化されていない。スキルが高く、起業家精神に富んだ若者もいる。これらが両国の閉鎖経済発展の背景となっており、さらに政府が国内産業を保護していたことも国内で新しい産業が成長した大きな理由となっている。

中国ははっきりと国内を制御可能な巨大市場に育て、それを足場に世界市場でのプレゼンスを高めようとしている。インドのアトマニルバール(自立したインド)も同様の方向性だ。アメリカではトランプ政権の経済ナショナリズムの成果によって、閉鎖経済化が経済成長をもたらすことがわかり、バイデンも同じく閉鎖経済化を進めている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相、ガザ病院攻撃に遺憾の意 「目標はハ

ワールド

中国は200%の関税に直面、磁石供給しなければ ト

ワールド

金正恩氏と年内に会談したい=トランプ氏

ビジネス

米7月新築住宅販売0.6%減65.2万戸、住宅市場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story