コラム

鎖国化する経済とサイバー安全保障 3大国に喰われる日本

2021年05月20日(木)17時30分

サイバー空間でも進む「閉鎖」 ロシアのサイバー非対称戦略

経済の閉鎖化と並行して、同じく安全保障上の理由でサイバー空間の閉鎖化も進んでいる。サイバー空間における今後の脅威についてまとめたNATO(北大西洋条約機構)のサイバー防衛協力センター( Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence = CCDCOE) の資料の最初の章で、ロシアが2024年にサイバー空間を閉鎖することが、サイバー非対称性を実現し、今後安全保障上の脅威になると指摘されている。

非対称というのは、攻撃と防御に要するリソースが同じではないということを指す。サイバー空間においては攻撃者絶対有利と言われているが、これは攻撃のために必要なリソースに比べて防御のために必要なリソースの方がはるかに大きい=非対称であることを指している。

ロシアは自国のインターネットを外部と遮断することにより戦略レベルの構造的優位を得ることになり、サイバー戦のあり方そのものを変える可能性もあるとしている。

ロシアのアプローチは、アメリカのインターネット支配に対抗して2000年代初頭に生まれたサイバー主権という概念から始まった(以前の記事参照)。

今回の閉鎖ネットでは、国家全体をインターネットから閉鎖し、その中で垂直および水平に統合された国家の統制管理するネットワークを作ろうとしている。

閉鎖ネットの国が攻撃を受ける可能性のある領域を最小限に抑え、多層防御を構築し、ネットワークを一元的に制御できる一方で、自由で開かれたネットワークの国の様々なセクターはあらゆる種類の攻撃を受ける可能性がある。

レポートではロシアの閉鎖ネットのシステムは下記の7つのサブシステムから構成されていると整理している。 それぞれのサブシステムについて「自由で開かれた」西側のインターネットを比較するとすべての項目で構造的な優位性が認められた。詳細は長くなるので拙ブログに掲載した。

1.国家の科学産業基盤 科学技術への投資と国有化
2.認証と暗号化
3.ブラックリストとコンテンツ規制
4.監視とデータ保持
5.重要情報インフラ
6.アクティブ対抗手段(情報戦、ネット世論操作)
7. 管理、監視、制御、フィードバック

ロシアの閉鎖ネットは単なる遮断スイッチではない。効果的に利用できれば、テロ、内乱、革命、局地戦から核戦争までのあらゆる種類の脅威に対応できる。また、さらにいくつかのセグメントに分けて管理することも可能だ。状況によって特定のセグメントを切り離したり、再び統合することもできる。

閉鎖ネット化をどのようにとらえるかは規範の問題であり、以前の記事で紹介したようにインターネットに関する国際規範は西側の手から離れつつあることも懸念材料だ。

国際問題(2019年7·8月合併号)に掲載された「サイバー空間における「国家中心主義」の台頭」(川口貴久)では別な角度からこの問題を取りあげ、サイバー空間に「国家」という概念が持ち込まれつつある現状を分析している。ここでもやはりアメリカと中国の安全保障上衝突、アメリカとロシアの安全保障上の衝突などが事例として紹介されている。またアメリカとEUの間でも、「クローズド」な方向性を持つEUとぶつかっていることを指摘している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

デンマーク、米外交官呼び出し グリーンランド巡り「

ワールド

赤沢再生相、大統領発出など求め28日から再訪米 投

ワールド

英の数百万世帯、10月からエネ料金上昇に直面 上限

ビジネス

英生産者物価上昇率、6月は2年ぶりの高水準
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に…
  • 8
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story