コラム

日本学術会議問題で浮き彫り、日本のSNS「怒りと混乱と分断」のシステム

2020年10月09日(金)16時00分

「日本学術会議」がSNSで話題になっている...... REUTERS/Issei Kato

<日本学術会議の会員の任命拒否の問題に関してSNSでどう広がったのか。SNSをもとにした政治的な問題の負のエコシステムが日本に存在するように見える...... >

日本学術会議がSNSで話題になっている。菅義偉首相が同会議が推薦した新会員6名を任命しなかったことを「しんぶん赤旗」が報じ、そこから一気に話題となった。本稿はこの問題についての首相の判断の是非を問うものではなく、この問題を通じて前回の記事でご紹介したエコシステムと「怒りと混乱と分断」をご紹介するものである。

その前にマッピングを行った2020年10月6日時点の状況を整理しておきたい。
 1.日本学術会議が会員に推薦した6名を任命しないことが問題(適法性と学問の自由への介入など)となっている。この問題については首相からの説明があった。
 2.日本学術会議の組織としてのあり方(中国との関係、組織の体質など)が問題となっている。
 3.首相自身は任命しなかった具体的な理由を公式に説明しておらず、日本学術会議に組織として問題があることが理由とは言っていない。つまり「2.」で指摘されている問題は首相が言ったことでなく、第三者(当事者を首相とした場合)が付け加えたものである。

ここで注意していただきたいのは、負の感情を喚起する内容が第三者によって付け加えられたこと(2.)である。そしてその内容がSNSで拡散している。

負の感情が混乱を作り、分断を広げる

ネット世論操作を仕掛けられたSNSでは、「怒り」(嫌悪や憎しみなど負の感情)を含む発言がより多く拡散し、混乱を生み、分断を広げる。ネット世論操作は政治的目的で行われることが多いので、支持政党の違いあるいは政権支持と不支持による分断となる。くわしくは後段でご説明する。

この分断によって政党や政権支持のエコシステム=負のエコシステムと呼ぶべき状態ができあがる。特定の政治問題に対して、負の感情を含む発言を拡散するネットワークができ、そこからメディアにも取り上げられるようになり、さらに拡散する。今回は発端がメディア(しんぶん赤旗)だったので、最初からメディアとともに問題を盛り上げている。

まとめ役や指示する者がいるかどうかは不明だ。アメリカの場合は党略として行われており、ブライバートのようなプロキシやボット、トロールなどが使用されていた(特に共和党)。

今回は、日本学術会議の会員の任命拒否の問題に、第三者が組織としての問題を付け加えて負の感情を喚起する発言を行い、それが拡散されている。

オープンソースのSNS解析ツールHOAXYを使って日本学術会議に関するツイートをマッピングしてみた。赤で囲んでいるのが首相判断支持のアカウントで、青で囲んでいるのが判断に疑義を唱えたり、批判したりしているアカウントである。

円の大きさはアカウントの発信したツイートの拡散度合いを示しており、円が大きいほど拡散している。線はリツイートやリプライを示し、アカウントに多くの線が結びついているほど多くのアカウントとつながっている(リツイートなど)ことを示す。データはいずれも2020年10月6日の段階のものである。

ichida1009a.jpg


「日本学術会議」というワードのマッピング(「日本学術会議」という言葉を含むツイート、リツイートをしていたアカウントのマッピング)を見ると、赤つまり首相判断支持に大きい円が多く、線が密集している。これに対して青つまり疑義や批判を唱えているグループは大きい円が少なく、線の密集度合いも赤よりも低い。赤と青のふたつのグループの間にも線がありコミュニケーションがあることがわかるが、その数は少ない。

「日本学術会議」と「学問の自由」のワードを含む発言のマッピングを見ると、その傾向はより強くなる。赤には大きな円も多く、多くのアカウントとつながっている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story