コラム

中国が香港の抗議活動弱体化のために行なっていたこと......サイバー攻撃からネット世論操作

2020年07月27日(月)15時30分

●デモ以外の抗議活動「黄色経済」の中心人物を狙い撃ち

「黄色経済(Yellow economy)」とは香港の地場の商品を扱うことで中国本土への依存を減らすことを目指す活動で、香港独自の「黄色経済圈」を構築することを目指している。抗議活動ともリンクしており、抗議活動を支援し、リーフレットなどを配布する店は、「黄色店舗」と呼ばれ、その店を支援する意味で購買する者を「黄色いリボン」と呼ぶ(South China Morning Post、2020年6月30日)。だが、この活動の中心人物は、すでに当局から目を付けられたため、フェイスブックで「黄色経済圈」を止めると発言し、リーフレットなどの配布も止めている。

●中国本土でナショナリズムを高揚

香港の抗議活動は中国本土でのナショナリズムの高揚に一役買っている(THE DIPLOMAT、2020年7月18日)。香港の抗議活動によって中国が諸外国から批判されることが、ナショナリズムを煽りやすい環境を作るのだ。情報が検閲されている中国国内では非常にやりやすい。香港を脱出した活動家の指導者のひとりも中国政府がナショナリズムの高揚を狙っていると述べている(ヤフーニュース・木村正人)。

その結果、香港の抗議活動は弱体化

中国政府の打った手によって抗議活動はかなり厳しい状況になっていたと考えられる。

●抗議活動を行う人々と、それに反対する人々が衝突

香港住民といっても一枚岩ではない。抗議活動を行う人々と、それに反対する人々の間で衝突が起きており、死亡者が出るまでの事態となっている(CNN、2019年11月19日、)。前述のNHKのクローズアップ現代+では抗議活動を批判する一般人の姿が紹介されており、抗議活動が必ずしも香港住民の総意とは言えない様子を示している。

返還後、多数の人々が中国本土から香港に移ってきており、そうした人々は中国本土に対する危機感は香港生まれの人々よりも強くないだろう。また、前述のように中国財界人は経済的便益を考えると問題を起こしたくないと考えている。抗議活動を行っている若者たちとの意識のギャップは大きかった。香港の人々は分断された。

●抗議活動参加人数は100万人から数百人に減少

抗議活動への参加人数は抗議活動側と警察発表の間で大きな乖離があり、はっきりしていない。たとえば2020年1月に行われたデモの参加者について抗議活動側は103万人、警察側は6万人と発表している。

その後、中国側の締め付けやコロナ感染抑止のための集会の禁止などもあったが、再びデモが行われるようになった。少なくとも360人が逮捕されたという記事(The Guardian、2020年5月27日)、抗議集会に参加したのは数百人という記事(Bloomberg、2020年5月23日)いずれの数字も100万人からはほど遠い。

また、前述のNHKの国際報道2020は昨年の百万人から数百人へ減少(99.9%減)した、としており、大幅に減少していることは確かなようだ。香港住民の気持ちとして中国本土への反発や自治、民主化への思いが強いことは、前出の区議会議員選挙結果を見てもわかるが、それを抗議活動につなげられる人は減少している。

日本の報道を見ている限りでは、抗議活動が衰えていないように感じることもあるが、実際には大きく後退し、弱体化していたのだ。中国政府は香港国家安全維持法案を可決する前にそこまで準備を整えていた。さらに言えば、国際連合人権理事会への根回し、中国・アフリカ 緊急サミットでの中国支持の声明、ラテンアメリカへの影響拡大、東アジア地域包括的経済連携と外交上の手も打っていた。

このあと中国の思惑通り全てが進むかどうかはわからない。しかし、先進諸国が注目してこなかったグローバル・サウス(しかし人口や経済での存在感は急速に増加)で中国が着々と手を打ってきたことを忘れてはならないだろう。中国にとって、これは「超限戦」という戦争なのだ。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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