焦点:トランプ和平構想が台無しに、イスラエルのイラン攻撃 動向不透明

6月12日、トランプ米大統領(写真)は選挙戦で、世界の主要な紛争を終わらせ国際社会に平和をもたらすと公約した。写真は5月、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビで撮影(2025年 ロイター/Amr Alfiky)
Gram Slattery Matt Spetalnick
[ワシントン 12日 ロイター] - トランプ米大統領は選挙戦で、世界の主要な紛争を終わらせ国際社会に平和をもたらすと公約した。しかし、政権発足から5カ月近くが経過した現在、イスラエルがイランを攻撃、パレスチナ自治区ガザとウクライナでの流血が止まらない状況となり、和平への期待は崩壊している。
イスラエルは13日未明、イランの核兵器開発を阻止するために同国の核施設に先制攻撃を実施したと発表した。アナリストは今回の攻撃が地域での全面的な戦争へと発展しかねないと警鐘を鳴らしている。
イスラエルの攻撃はトランプ氏を軽んじる行為とも受け止められかねない。トランプ氏は核交渉が失敗した場合はイランへの攻撃を辞さないとすると警告したこともあったが、イスラエルのネタニヤフ首相に対しては、イランを攻撃しないよう繰り返し圧力をかけてきた経緯があるからだ。
オバマ元大統領の外交政策顧問を務めたブレット・ブルーエン氏は「今回の攻撃の最初の犠牲者の一つがトランプ外交だ」と語る。
「トランプ氏は大規模紛争の和平実現はおろか、ガザでの紛争を停戦に近づけることすら困難な状況だ。最も和平への道が開けそうに見えたイラン問題だがネタニヤフ首相が台無しにした」と指摘した。
今回の攻撃はイランの核開発問題の外交的解決に向けて交渉を進めてきたトランプ氏の側近であるウィトコフ中東特使に対する批判でもある。ウィトコフ氏は米国とイランの交渉を見守るようネタニヤフ氏に呼びかけていたが、結局失敗に終わった。
<報復連鎖の恐れ>
トランプ政権内部では外交政策を巡り亀裂が生じており、国家安全保障会議(NSC)、国防総省、国務省などで数十人の官僚が解任された。外交経験のないウィトコフ氏は退任すべき時期なのではないかとの声が複数の当局者から聞こえている。
民主党のクリス・マーフィー上院議員はXへの投稿で、「これはトランプ氏とネタニヤフ氏が自らが招いた惨事であり、今やこの地域は新たな、より深刻な紛争へと発展する危険にさらされている」と非難した。
イスラエルの攻撃が地域紛争の引き金となるかどうかは依然として不透明だが、一部のアナリストは、イランが中東における米国の資産を攻撃する恐れがあると指摘する。イエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海を通過する船舶に対する攻撃を再開する可能性もある。
イスラエルがイランの核開発計画を恒久的に阻止できるかどうかも不透明だ。
アナリストは特にイラン中部フォルドゥの地下に設置されたウラン濃縮施設をイスラエルが破壊できるかを疑問視している。イスラエルはイランに甚大な被害をもたらすとみられるが、より永続的な打撃を与えるには米国の軍事支援が必要だと専門家は指摘する。しかし、米当局は現時点でそうした支援は行っていないとしている。
もう一つの疑問点は、イランがどれほど効果的に反撃できるかだ。イスラエルは今回の攻撃でイランの指導者数人を標的にしていることを示唆しており、作戦は今後も継続するとみられている。
世界平和の推進者として見られたいというトランプ氏の願望は、今回の攻撃が致命的な打撃となるのか、単なる後退にとどまるのか、これらの要因が左右することになる。
米シンクタンク、中東研究所のチャールズ・リスター氏は、「これはイランの核・ミサイル計画に対する全面作戦の第1弾に過ぎないというイスラエルの発言をそのまま受け止めるなら、イラン政権は今や存亡がかかった重大局面に直面しているといえる」と指摘。
その上で、今回の攻撃は今までとは全く違う意味を持ち、事態が大規模な報復の連鎖に陥るリスクが、過去の事態よりもはるかに現実的になっていると分析した。