ニュース速報
ワールド

焦点:トランプ減税法案、米重要鉱物企業を直撃 税控除廃止なら対中競争力に懸念も

2025年06月14日(土)12時04分

 6月12日、トランプ米大統領(写真)が「大きく美しい法案」と呼んで推進する税制・歳出法案は、中国と競争しようとしている米国内の重要鉱物部門の足を引っ張ることになるだろう。写真は5月、ニューヨーク州ウエストポイントで撮影(2025年 ロイター/Eduardo Munoz)

Ernest Scheyder

[ワシントン 12日 ロイター] - トランプ米大統領が「大きく美しい法案」と呼んで推進する税制・歳出法案は、中国と競争しようとしている米国内の重要鉱物部門の足を引っ張ることになるだろう。ニッケルやレアアース(希土類)など、先端電子機器や兵器に使われる鉱物の国内生産を促進する税額控除制度の廃止が盛り込まれているからだ。

トランプ氏と与党共和党がグリーンエネルギー関連プロジェクトの政府助成削減を目指す中、議会下院で5月に可決され、上院が審議中の税制・歳出法案では、いわゆる「45X」条項と呼ばれる控除の撤廃が明記されている。

45Xは、バイデン前政権が2022年に導入した「インフレ抑制法(IRA)」の生産比例税額控除の一部で、重要鉱物の採掘・加工にかかる法人税負担を軽減する仕組み。この控除は、太陽光発電やバッテリー、風力発電のプロジェクトも適用対象となる。

下院が可決した法案は、国家安全保障の見地から風力タービンと鉱物関連プロジェクトに対する政府助成を同一に扱っている。これについて米重要鉱物生産業界は、自分たちのプロジェクトが、トランプ政権の再生可能エネルギー敵視政策の巻き添えになったと嘆く。

超党派の議会予算局(CBO)は、控除が廃止された場合に政府支出をどの程度節約できるのか、まだ試算していない。

議会で多数派を占める共和党は、減税や国防費増額の財源を捻出しながら財政均衡を図ろうとし、節約できる予算を探し回っている。共和党下院保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」は今月、可決した法案に苦労して盛り込んだ歳出削減と、自由議連が「新たなグリーン詐欺」と主張するIRAの撤回を骨抜きにしたり、縮小したりする試みを決して容認しないとくぎを刺した。

これに対し、重要鉱物生産業界は中国と競争する上で控除制度は必要だと強調する。

米国との貿易交渉を進める中国は、市場で圧倒的な優位にあるレアアースの輸出を制限する一方、安価なニッケルやコバルト、リチウムなどを世界に大量供給している。長年、政府からの支援を受けることに慎重だった米鉱業セクターは今、成長のため、場合によっては生き残るために、公的助成が不可欠な状況に立たされている。

米国唯一の商用ニッケル精錬施設を建設しているウエストウィン・エレメンツ創業者のカリー・ロング最高経営責任者(CEO)は「税額控除がなくなれば、米国の重要鉱物生産企業は廃業の瀬戸際に追い込まれる恐れがある」と語った。

ロング氏は、ウエストウィンが利用している融資は税額控除の恒久化が前提になっていると説明し、控除なしでは返済ができなくなるかもしれないと懸念する。同氏は先月、上院に控除維持を嘆願する書簡を送付。これには業界幹部30人が署名した。

下院が可決した法案には、重要鉱物の在庫確保のための予算として25億ドル、国防総省の採掘ローンプログラム用に5億ドルが計上されているが、大規模鉱山にかかる費用はずっと巨額だ。

野党民主党の下院議員は全員が法案に反対票を投じたものの、批判の矛先は各種減税や医療、食料支援、教育、科学研究など、この控除以外の別の分野における歳出削減に向けられた。

一方でジョン・ヒッケンルーパー上院議員(民主党)はロイターに対し、45Xの廃止は「雇用を失わせ、超富裕層向けの控除財源を生み出すだけ」になり、国家にとって「筋の悪い取引」になると反発した。

トランプ氏はこれまで米国内の鉱物生産拡大を目指す複数の大統領令を発出してきた。ただ、45Xを巡る議論については公式にコメントしていない。ホワイトハウス当局者の1人は、45XなどのIRAの項目は、それらがトランプ氏の優先課題と一致しない限り、政権として支持しないと述べた。

ロング氏の書簡に署名したマグネシウム加工新興企業マグラセアのアレックス・グラントCEOは「税額控除はプロジェクトの経済性を驚異的に向上させ、中国が自国企業に提供している利点をわれわれにも与えてくれる」と強調した。

鉄鋼やアルミニウムの合金として使われるマグネシウムも、世界生産量の大半を中国が占めている。

別の業界関係者は税額控除について、市場操作にさらされている米国の重要鉱物産業を支援する上で現在利用できる唯一の手段だとの見方を示した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ビットコイン、初の12万ドル突破 「どこで止まるか

ビジネス

FSB、気候変動リスク対応の中期計画発表 新政策は

ワールド

米国、ウクライナへの武器・弾薬供与を継続=ロシア大

ビジネス

ドイツ輸出企業、市場シェア大幅減 競争力低下と連銀
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中