コラム

標的はバルト3国、「ユーラシア主義」から見えるプーチンの次の一手

2022年03月01日(火)16時50分
プーチン

2月24日にテレビ演説を行うプーチン REUTERS TV

<プーチンを場当たり主義者と見なしてはならない。その世界観、信奉する反欧米的哲学、戦略的アプローチ......。バルト3国で緊張が高まれば、NATOとの間で第3次大戦が始まる危険性が高まる>

気の毒なウクライナ。この国は、地理的条件とプーチンの世界観によって悲劇を運命付けられていた。

互いに対立する超大国の勢力圏に挟まれた国々は、その目的やパワーバランスの変化に翻弄され、常に不安定な存在であり続ける。

世界第2の軍事力を持つロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、自国の国境に迫るNATOの拡大を存立の危機と見なした。ウクライナの西側陣営入りを断固阻止する決意を固め、ウクライナ侵攻は許容範囲内のコストで実行可能と判断した。

ウクライナにとってロシアは強大すぎる相手だ。アメリカとNATOはウクライナのために戦うことはないと明言している。

多くの命が失われた後、ウクライナは全体主義国家ロシアの傀儡政権に戻るか、ロシアが支配する東半分と政治的に中立の西半分に分割される可能性が高い。

ウクライナの人々は40年前のアフガニスタンのように武装闘争を続け、最終的にはロシアを打ち負かすと主張する。だがヨーロッパの心臓部でゲリラ戦を展開するのは現実的ではなく、人的被害も膨大なものになる。

ロシア対NATOの大陸にまたがる大戦に火を付けるリスクもある。

ロシアの侵攻は憂慮すべき蛮行だが、ウクライナの悲劇は副次的な問題にすぎない。より大きな問題は、プーチンの世界観と国際政治への戦略的アプローチ、そして近い将来の狙いだ。

次の出方によっては、1945年にアメリカが打ち立て、1991年のソ連崩壊後も続いてきたルールに基づく国際秩序をさらに弱体化させ、破壊しかねない。

magSR20220301_ukrainemap.png

プーチンは欧米との「文明の衝突」を1つのパイを取り合うゼロサムゲームと捉えている。

過去20年間、中央ヨーロッパにおけるロシアの優位と世界的影響力の再構築を追求し、ソ連の崩壊を「20世紀最大の惨事」と繰り返し呼んだ(2つの世界大戦よりひどいという意味だ)。

プーチンが一貫して目指してきたのは、世界3大強国の1つにふさわしい地位をロシアが回復すること。従ってウクライナ侵攻は、欧米のロシア支配を防ぎ、ロシアの力と偉大さを回復するために必要な義務的措置なのだ。

「選択の余地はなかった」と、プーチンは語っている。

「ユーラシア主義」の信奉者

ウクライナ侵攻で欧米からどんな制裁を受けようと、次は旧ソ連圏でNATO加盟済みのバルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)を徐々に不安定化しようとするだろう。NATOの集団的自衛権を定めた北大西洋条約の第5条に、ある締約国に対する武力攻撃は全締約国に対する攻撃と見なすと定められていることなどお構いなしだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、FRBの政治介

ワールド

ウクライナ、和平計画の「修正版」を近く米国に提示へ

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story