コラム

東京五輪は何人分の命の価値があるのか──元CIA工作員が見た経済効果

2021年06月10日(木)18時15分

開催の代償はあまりに大きい

五輪が日本の新型コロナ感染状況にどのような影響を及ぼすかについて、正確な推計は不可能だ。

そこで控えめな計算をして、五輪閉幕後の1カ月間、(感染が爆発的に広がることは避けられて)5月前半とほぼ同水準の1日7000人程度の新規感染者が発生すると仮定しよう。

この場合、1カ月間の新規感染者の合計は21万人。日本の医療体制は極度に逼迫するだろうが、「崩壊」までは行かないかもしれない。

しかし、新型コロナの致死率は約2%と言われているので、1カ月間で4200人が死亡する計算だ。

米政府は、さまざまな分野で安全性に関する規制を設ける際の基準にするために、複雑な計算式に基づいて人命の価値を約1000万ドルと算出している。

これに従えば、1カ月で4200人が死亡した場合、約420億ドルの損失という計算になる。

五輪閉幕から2カ月目、1カ月の死者数が2100人に半減するとしよう。その場合には五輪閉幕後の人命喪失による損害は、わずか2カ月で合計630億ドル相当ということになる。

このように命の価値を金額に換算するという不愉快な計算をするまでもなく、五輪開催のコストが社会的・経済的な利益を大きく上回ることは明らかだろう。

もしこのまま五輪を開催すれば、日本と世界で非常に多くの人が(本来ならば失わずに済んだはずの)命を失うことになる。

日本政府が五輪への投資を回収しようと躍起になり、虚栄心を満たそうとし、国の経済生産を押し上げられるという誤った期待を抱くことの代償として、そのような結果がもたらされるのだ。

私は五輪を観戦するのが大好きだし、若い頃からスポーツを愛好してきた人間だ。それでも、何千人もの死者を出してまで陸上短距離やレスリングの試合を行う価値はない。

東京五輪は中止すべきだ。

(※日本の常識は世界の非常識だった――。本誌6月15日号では、パンデミック五輪に猛進する日本の現状を総力特集。仏リベラシオン紙東京特派員がリポートする、五輪貴族と国民の「格差」や、海外記者が五輪中に監視を振り切る「抜け穴」とは)

ニューズウィーク日本版 健康長寿の筋トレ入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月2日号(8月26日発売)は「健康長寿の筋トレ入門」特集。なかやまきんに君直伝レッスン/1日5分のエキセントリック運動

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがキーウに夜間攻撃、子ども4人含む15人死亡

ワールド

欧州新車販売、7月は昨年4月以来の大幅増 BYDが

ワールド

アングル:英国で広がる「国旗掲揚運動」、反移民気運

ワールド

アングル:超長期金利が上昇一服、財務省の発行減額巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 6
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 7
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story