コラム

火星の基地建造まで「あと20年」 中国参入、民営化で激変した宇宙開発の未来

2021年05月25日(火)19時52分
スペースXの宇宙船スターシップ

巨大宇宙船スターシップは火星に1000隻打ち上げられる GENE BLEVINSーREUTERS

<イーロン・マスクの宇宙船を始め、技術革新とコスト低下によって宇宙の主役はもはや米ロではなくなった>

史上最大級の宇宙船「スターシップ」が、2021年中に地球周回軌道へ打ち上げられる。

この宇宙船は、起業家イーロン・マスクの率いるスペースXが建造したもの。16階建てのビルほどの高さがあり、100トンの貨物または100人の乗客を運べる。自力で着陸できる上、船体の再利用も可能だ。今後2~3年のうちに完全実用化される見通しで、24年以降に予定されるNASAの有人月探査計画に使われることが決まっている。

だが、スターシップが本当に目指すのは火星だ。今後3~7年のうちに火星への最初の打ち上げを計画している。最終的には1000隻を打ち上げ、火星に100万人が暮らせる都市を造る。

宇宙開発競争が始まったのは1957年。ソ連が初の人工衛星打ち上げに成功して世界に衝撃を与えたときだ。

その後、宇宙開発競争は米ソを中心に展開した。だが89年の冷戦終結とともに予算は縮小され、人々の関心も薄れて、有人宇宙飛行の進歩は減速した。

スペースXとブルーオリジンの誕生

しかし2003年頃から、再び競争が激化する。その背景には3つの要因があった。宇宙産業の民営化、世界の富の劇的な増加と多様化、そして加速のペースを緩めることのない技術革新だ。

03年の米スペースシャトル・コロンビアの爆発事故を受けて、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領はアメリカの宇宙開発の民営化に舵を切った。より低コストで、より迅速な革新を促すためだ。後任のオバマ大統領もその考えに賛同し、民営化をさらに積極的に推し進めた。

こうして10年足らずの間に、多くの民間宇宙開発企業が誕生した。なかでも最も有名で大規模なのはマスクのスペースXと、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンだ。

その他の企業も小型衛星の打ち上げや3Dプリンターを使ったロケット開発など、新しい分野に乗り出している。スペースXをはじめとする民間企業の参入で、以前は約2億ドルだった人工衛星の打ち上げコストは20年までに6000万ドルに引き下げられ、いずれは200万ドルにまで下がる可能性がある。

もう宇宙開発は、米ロというかつての超大国の独壇場ではない。今は多くの国が野心的な宇宙開発計画を掲げており、中国(年間予算89億ドル)や欧州宇宙機関(80億ドル)、アラブ首長国連邦(52億ドル)などが急ピッチで宇宙開発を進めている。世界の宇宙産業は約3500億ドル規模に達し、40年代には1兆ドルを超えると予想されている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、インドをWTO提訴 太陽光備品やIT製品巡り

ワールド

ウクライナ軍、東部シベルスクから撤退 要衝掌握に向

ワールド

グレタさん、ロンドンで一時拘束 親パレスチナ支援デ

ビジネス

ワーナー買収戦、パラマウントの新提案は不十分と主要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story