コラム

ファーウェイ機器にマルウェアを仕込みたい──それは中国政府が抗し難い誘惑

2019年02月09日(土)14時30分

情報機関の抗し難い誘惑

世界最大の経済大国が世界第2位の経済大国を関税の標的にすれば、その影響は計り知れない。世界中で物価が上昇し、貿易が減り、生産の効率が下がる。つまり、ほぼ全ての人が不利益を被る事態を招く。そうした影響は既に表れ始めている。

世界の国々は、戦略上の対立関係にある国の企業が製造した通信機器を締め出すべきなのか。

フランスの大統領を務めたシャルル・ドゴールは、こう述べたことがある――「フランスに友人は存在しない。あるのは国益のみ」。

元情報機関職員として言わせてもらえば、ドゴールが言うとおりだ。どの国も(そしてどの企業も)常に他者の弱みに付け込んで自らの利益を最大化しようとする。だから、競合相手に対して警戒を解いてはならない。それは相手が友人であろうと敵であろうと同じことだ。

安全保障専門家の間には、中国の情報機関がファーウェイのような中国企業を利用して、他国の政府機関や企業のシステムに「トロイの木馬」を組み込んでいるという疑念がある。他国の政府や企業から情報を盗んだり、混乱を生じさせたりする能力を手にしているのではないかと疑っているのだ。

もっとも、どのような企業も、自社製品が情報機関の工作手段として利用されることのリスクは理解している。その点では、「国家と協力する」ことを義務付けられている中国企業も例外ではない。

情報機関の工作活動に製品を利用させていたことが明るみに出れば、その企業は厳しい制裁を受け、壊滅的な打撃を被ることもあり得る。元情報機関職員としての私の経験から言うと、世界中のほとんどの企業は情報機関に自社製品を利用されることを避けようと懸命に努力する。

とはいえ、情報機関はリスクと恩恵を冷徹に計算する。そして、情報機関が重んじるのは企業の収益よりも、(時の政権が考えるところの)国益だ。

私の感覚から言うと、戦略面と戦術面で決定的な優位をもたらす可能性のある「トロイの木馬」をひそかに組み込みたいという誘惑は、専制国家の情報機関にとって抗し難いかもしれない。その点は、各国政府も頭に入れておくべきだ。

国際ルールをめぐる衝突

いまファーウェイをめぐって起きている騒動には、国際システムの再編に向けた動きの一環という側面もある。

欧米の政府と企業は、中国と中国企業に国際的ルールを守らせたい。既存のルールのおかげで、過去75年間にわたり空前の経済成長と国際平和が実現したと考えているからだ。一方、中国側には、既存のルールが中国の意見を反映しておらず、欧米が有利になるように作られているという不満がある。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、中東和平交渉への期待感で

ビジネス

NY外為市場=ドル弱含み、米イラン停戦維持を注視

ワールド

英海域にロ潜水艦、今年1カ月超 ケーブル攻撃阻止へ

ワールド

独首相「NATO分裂望まず」、ホルムズ安全確保に協
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 6
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story