コラム

ファーウェイ機器にマルウェアを仕込みたい──それは中国政府が抗し難い誘惑

2019年02月09日(土)14時30分

中国の情報機関は本当にファーウェイ製の通信機器に「トロイの木馬」を組み込んでいるのか Kevin Frayer/GETTY IMAGES

<トランプ政権の関税引き上げは悪手だが、他国の情報機関に対して警戒を怠るべきではない>

中国の巨大通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に逆風が吹き付けている。

CFO(最高財務責任者)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)が昨年12月にカナダで逮捕された。これは米当局の要請を受けたものだ。対イラン制裁措置に違反した疑いや、米携帯通信大手Tモバイルの企業秘密を盗んだ疑いなどが掛けられている。1月28日、米当局はこれらの容疑で孟個人とファーウェイを起訴した。

ポーランドでは1月、ファーウェイの社員がスパイ容疑で逮捕された。各国の間では、次世代通信規格「5G」からファーウェイを排除する動きも広がっている。中国の情報機関が同社の5G通信機器に「トロイの木馬」(ユーザーに発見されないように動作するマルウエア)を組み込む恐れがあると考えられているためだ。

孟の逮捕は、アメリカ、中国、カナダの間で外交危機を生み出しているが、影響はそれだけにとどまらない。ファーウェイへの警戒心を募らせているアメリカは、世界中で同社に対抗しようとしている。それに伴い、同社がある程度のシェアを持っている国全てに政治的・経済的リスクが及びつつある。

政治的動機の有無はともかく、アメリカの司法当局は大した根拠もなく孟とファーウェイを起訴したわけではない。容疑を裏付ける証拠の電子メールや通話記録、写真などが多数ある。

しかし、孟の逮捕は、過去40年間の米中関係の歴史ではほぼ前例がなかったことだ。米政府は、中国が貿易ルールをないがしろにすることを許さないと決めたように見える。

中国はWTO(世界貿易機関)への加盟交渉の過程で、「途上国」として一部の義務の減免措置を勝ち取った。その後20年余りの間に中国経済は飛躍的に成長し、さまざまな分野で世界の先頭を走るまでになった。

中国が経済大国になった以上、巨額の対中貿易赤字を抱えてまで中国の不公正な貿易慣行を容認したり、特別待遇を許したりするつもりはない――米政府は今回、その意思を明確にしようとしたのかもしれない。

世界の大半の国と企業も米政府と同じ思いでいる。しかし、中国との貿易や中国企業とのビジネスを通じて得られる数々の恩恵は手放したくない。中国との貿易戦争と外交対立により、双方が損失を被る事態は避けたいと考えている。

トランプ政権の対応は、ファーウェイが(容疑が正しいとして)テクノロジーを盗むのを容認し続けるよりも、はるかに悪い結果を招きかねない。

他国に圧力をかけるために関税を引き上げれば、輸入品の価格が上昇し、生産者と消費者の両方が損をする。日本のコメが分かりやすい例だ。輸入されるコメに高い関税が課されているために、コメの生産者だけでなく、日本の消費者も莫大な経済損失を被っている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃伴う演習開始 港湾など封

ビジネス

韓国クーパン、顧客情報大量流出で11.8億ドルの補

ワールド

尹前大統領の妻、金品見返りに国政介入 韓国特別検が

ビジネス

日経平均は反落、需給面での売りが重し 次第にもみ合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story