コラム

プーチンの侵略戦争に「No!」渋谷に2000人、国内最大規模の叫び

2022年02月26日(土)22時10分

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(筆者撮影)


今次集会での在日ウクライナ人主催者らの主張は首尾一貫している。プーチンの侵略は、ウクライナへの敵対だけに非ず。それは民主主義と自由への普遍的な挑戦である、という趣旨だ。だからこそ、彼ら在日ウクライナ人は、「ロシア人が悪い」とか「ロシア人が憎い」等という声を挙げる者は一人として存在しなかった。

悪いのはプーチンとその政府関係者であって、プーチン・ロシア政府と、無辜の、或いは反プーチン派を含むロシア人を完全に分離して非難している。悪いのはプーチンとその周辺の戦争指導者であって、敵はロシア人ではない。事前台本など無いにも関わらず、ロシア政府を憎んでロシア人を憎まず。彼らのこの姿勢は、集会が終わるまで終始一貫して貫かれた。祖国存亡の危機にあるにもかかわらず、この美しい、友愛と慈悲に満ちた純なる彼らの平和への希求に、私はその両眼から水がしたたり落ちるのを止めることができなかったのである。

そして今次集会は、渋谷ハチ公前という目抜き通りが選ばれた理由としては、まだまだウ情勢に無関心な日本人に対する強い啓発の意図が含まれている。私たち市井の日本人からすると、様々な複雑事情があるにせよ、ロシア人とウクライナ人を直感的に鑑別する洞察術を持ち合わせてはいないのが通常である。ロシアとウクライナは同じスラブ民族であり、「兄弟国的」と専門家が言えば、ああそうなんだと思ってしまう。

兄弟だと言って併合するのは常套手段

しかし集会で在日ウクライナ人らは、「私たちは(ロシアとは)別の国、別の人々だ」と高らかに繰り返した。別の国、別の人々だからこそ、それぞれに固有の主権があるのである。その固有の主権をプーチンが踏みにじることは許されないという理屈である。プーチンはウクライナを指して、「(ロシアとは)極めて近似的」と言い、それを拡大解釈して2014年のクリミア併合を正当化した。

複雑な歴史があるにせよ、いまウクライナ人たちは、はっきりと、「自分たちはロシア人ではない」というアイデンティティを確立しているように私には思えた。そういった民族的皮膚感覚に疎い私たち日本人は、彼らの確固としたアイデンティティを尊重しなければならぬ。ウクライナ東部や(併合された)クリミアには親露派が比較的多く、西部には少ないという分割論もウソであり、ウクライナ人はウクライナ語とロシア語を両方話すバイリンガルなので、どちらの言葉を話すから何派なのだ、という区分自体が無意味である、という趣旨が配られたビラに書いてあった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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