コラム

プーチンの侵略戦争に「No!」渋谷に2000人、国内最大規模の叫び

2022年02月26日(土)22時10分

PANO_20220226_134124.jpeg
(筆者撮影)


そんな初歩的なウクライナ知識から啓発しなければいけないほど、我が国における対ウ認識は発展途上なのである。翻って私もそうなのである。キエフという都市の名前自体、独ソ戦の著書や映像を通じて、高校生の時、初めて覚えたものだ。そしてそのキエフが、80年以上たって再び侵略者による陥落の危機に瀕しているとは、なんという無慈悲な皮肉なのか。

最後に在日ウクライナ人主催者の一人(男性)がマイクを握った。「私たちには、これ(集会)しかできることがありません」。一見穏当だが、その言葉の背景には、私たちが理解できる、と言うには余りにもおこがましいと形容できる絶望感が滲んでいる。一般的な市井の日本人は、ウクライナという国全般に対してまったく無知であること。よって在日ウクライナ人が、今次ウクライナ侵略の非道を日本人に訴えるときは、まずそこ(ウクライナって何?)から始めるしかないこと。そして彼ら在日ウクライナ人たちが、祖国存滅の危機にあるさなか、しかしそれでも自らができることと言えば、こうして渋谷の広場に立って聴衆に訴えることしかない事。何重にも絶望が広がる言葉の重みではないか。

ロシアヘイト発言はなし

それでも彼らは決起したのである。そしてそれでも、彼らはロシア人を憎む言葉を一言も発さない。ロシア人をやっつけろ。ロシア人を殺せ!などという、日本のある種のヘイト団体がゼロ年代以降使うようになった悪辣な常套句など、ただの一人も言わないのだ。なんという美しい人たちなのだろうか。なんという人道の人々なのだろうか。なんと他者を慈しむ人々なのだろうか。彼らの故郷が今まさに蹂躙されんとしているさなか、彼らの声は確実に2月26日の渋谷にいた群衆や、それをネット中継で見ていた人々に届いたはずである。

嗚呼、神が居るならば、どうかウクライナをお救い下さい。もしもそれが叶わぬのなら、ウクライナの心の隣人として、日本の遠き友人が居るというささやかな事実を以て彼らをお癒し下さい。と、ここまでありったけの感傷を秘めて、そそくさと自宅に帰った私だったが、よく考えれば私には堂々と帰る家がある。しかしもう、今後、一切、彼ら在日ウクライナ人たちには帰る家など無くなるのかもしれないのである。これが無慈悲な侵略戦争の突きつける現実なのだ。

砲火の決して届かぬ日本の自宅や快適なホテルからCNNを見て戦況を眺めておれば、なんとなしに勝っているとか負けているとかで留飲を下げている、私の卑小さ・非力さ・無力さにも腹が立った。だが、それでもどうか届けたい。ウクライナの遠き友が日本であることを。そして世界の自由と平和を愛する無辜の大勢の人々がパソコンやテレビの前で彼らを応援していることを。人の世のある限り、人の世が人の世である以上、私たちが如何に無力で非力な存在であっても、どうぞ届けてください。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ワールド

カナダ、北極圏2カ所に領事館開設へ プレゼンス強化

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story