コラム

社交性信仰が日本をダメにする

2021年04月21日(水)18時10分

大学では話しかけてくる友人という者が居らず、開き直った私は独りで学食に行き、味噌汁を啜り白米を掻っ込みながら『文藝春秋』『諸君!』『SAPIO』『週刊新潮』『週刊文春』等をこれ見よがしに広げて読む生活が始まった。


私の大学には当時学内随一のリア充が集まるとされた産業社会学部があり、そこの1Fの食堂で毎日これをやった。この学部のリア充たちは、ゼロ年代初頭における最先端のモードを取り入れている者ばかりで、良く分らぬが布みたいもので体に包んだファッションをしていた(後にこれがストールと知る)。学食に来る殆どの者が男女混合のグループで、私の様な「孤食」の人間は皆無だった。当然奇異の目で見られたが、私は彼らの中身のない談笑を「敵の慰撫工作であり、ある種の宣伝戦である」と黙殺し、西尾幹二の本を耽読して抵抗を続けたのであった。

この頃から、私は独りで物を食べること、独りで酒を飲むことが常態化した。この癖は、私が結婚して以降38歳になる現在まで何ら変わらない。30歳を過ぎてから少し態度がでかくなってきて、地元客だけが集まるような閉鎖的雰囲気を醸し出す居酒屋でも平気で門戸を叩けるようになった。そこでは一切会話せず(無論、注文と会計の発声はする)、ただ黙々とSF小説を読むか、録音したラジオや落語をヘッドフォンで聴く。誰かと一緒ならこういうことは出来ない。

私は、他者とどう付き合ってよいのか、という根本的な社交性の基礎を身につけないままこの歳になってしまった。初めて会った人とどう話してよいのか、何を話したらよいのか、あるいはどう振舞ってよいのか今でもわからない。流石に歳を取ってきたのでそういう場所に多人数で行けばひと通りの会話はできるようになったが、酒が進むとどんどん独りで喋り出し、仕舞には演説になっている。私の社交性はゼロだ。

冒頭山田前内閣広報官は、その旺盛な社交性をフルに活用して出世したのであろう。しかし最終的には社交性がアダとなって公務員を辞任することになった。社交性が吉と出るか凶と出るかは難しいが、結局のところ凶と出る場合が多いのではないか。大体において違法薬物への依存は「友達から譲ってもらった」という過程の中で検挙される。所謂悪友であるが、社交性が無く友達がいなければ、そもそもこういった悪事に手を染めることは少なくなる。


プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豪コアインフレ率、第3四半期0.9%なら予測「大外

ワールド

独IFO業況指数、10月は88.4へ上昇 予想上回

ワールド

ユーロ圏銀行融資、9月は企業・家計向けとも高い伸び

ワールド

ユーロ圏企業、事業見通し楽観 インフレ上振れリスク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story