コラム

自民党重鎮たちの失言を振り返ればわかる、これは「党の体質」だ

2021年02月10日(水)19時52分

自民党重鎮の失言は森だけではないし今に始まったことでもない(2月2日、自民党本部) Kazuhiro Nogi-REUTERS

<「下々の皆さん」から「アッケラカンのカー」まで人を見下した失言は昔からきりがない。それでも彼らを選び続けたのは我々だ>

失言・舌禍が国際問題になり批判の矢面に立たされている森喜朗氏(83歳)、それを援護する二階俊博幹事長(81歳)。10万円の一律再給付を頑なに拒否する麻生太郎財務大臣(80歳)。

流石にここまでくると、国民世論から「老害」という言葉が闊歩している。加齢を重ねると、市井の人々の皮膚感覚と遊離する権威的思考が定着し、柔軟な対応が出来なくなるという意味で「老害」という言葉は使われる。ひるがえって彼ら「老害」が国政の中枢に居座っているから、この国はどんどん悪くなっている──という批判である。

彼らは加齢して老人になったから舌禍や批判に値する言動を繰り返すのだろうか。老人になると政治家は皆、傲慢になったり、権威的になったり、市井の市民感覚からどんどんと遊離していくのだろうか。

結論として私はこれは間違いだと思う。冒頭にあげた「老害」とされる人々は、壮年期であっても、青年期であっても、けだし同じような人間性を内包していたのである。つまり、老人であるか否かは関係が無く、彼らは元々「そういう人」だったのである。「三つ子の魂百まで」という諺はあながち間違いでもない。

復古的イデオロギー

森喜朗氏は2000年に小渕恵三首相の入院・急逝によって急遽組閣して総理大臣になるが、当時有名な失言は「神の国発言」「(無党派層は)寝ていてくれればいい」であった。これにより内閣支持率は激減したが、当時の森氏の年齢は62歳で、総理の年齢としては標準的であり決して老人ではない。「神の国発言」の評価はともかく、元来こうした復古的イデオロギーや世界観を持っており、それがそのまま加齢しても修正されずに残存しただけである。

二階俊博氏は2018年(第二次安倍政権、幹事長)に「戦中、戦後の食うや食わずの時代も、子どもを産んだら大変だから産まないようにしようと言った人はいない。この頃、子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と発言して国内外で大きな問題になった。

二階氏は1939年生まれだが、当然従軍経験は無く、戦後の高度成長が一服した1975年に和歌山県議会議員に当選して政界入りする(36歳)。二階氏は皮膚感覚として戦中の事は分からないはずだが、高度成長時代に青年期を送った。確かにこの時代、少子化よりむしろ人口過剰と、大都市部への過度の人口流入によって引き起こされる住宅難が日本社会の大課題であった。二階氏もまた、加齢したから権威的になったのではなく、元々こういう価値観を持った政治家だったというだけである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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