コラム

在日コリアンに対するヘイトクライムを止めるためマジョリティが考えるべきこと

2021年12月23日(木)18時38分

ヘイトクライムを通常の犯罪よりも特別に重罪とするのは、そのような偏見や憎悪に基づくマイノリティへの攻撃は次第にエスカレートして、しばしば取り返しのつかない集団殺戮へと発展するケースが歴史上多かったからだ。かつてアメリカではアフリカ系へのリンチが常態化し、ドイツでは言わずと知れたホロコーストがあった。
 
日本には、諸外国のようなヘイトクライムを特別に罰する法律はないが、そうした法律を成立しようという機運は存在している。特に2009年に起きた排外主義団体「在日特権を許さない市民の会」による朝鮮学校襲撃事件以降、ヘイトスピーチ規制と合わせて国会でも具体的な議題として提示されることになった。ヘイトスピーチ解消法は2016年に成立した。しかし、ヘイトクライム罪の立法化は、「表現の自由」をめぐって根強い反対も大きく、結局のところ現在まで実現してはいない。

日本でも深刻なヘイトクライムは起こっている

民族マイノリティに対する虐殺事件は外国の話ではなく、日本でも実際にあった。たとえば1923年の関東大震災時の朝鮮人虐殺だ。「朝鮮人や共産主義者が井戸に毒を入れた」というデマを直接のきっかけとして、数千人の朝鮮人が虐殺された。当時日本の植民地支配下にあった朝鮮では民族運動が発展し、1919年には三・一独立運動が起こっている。日本当局は武力をもってこの独立運動を弾圧したが、朝鮮人のこうした動きへの警戒感が、日本政府と日本人の双方にあった。虐殺の背景には、このような恐怖心もあったといわれている。

しかしながら、近年ではこの関東大震災時の朝鮮人虐殺の歴史そのものを否定する動きがある。小池百合子知事は、これまでの都知事が毎年行ってきた朝鮮人犠牲者の追悼式典への追悼文の発送を、5年連続で行わなかった。こうしたヘイトクライムの歴史を否定する動きは、在日コリアンに対する差別扇動を助長することになる。ヘイトクライムのが続く中で、およそ100年前の関東大震災時の悲劇の記憶は、改めて思い出されなければならない。

記憶から受け継がれる教訓

なぜヘイトクライムの記憶の継承が必要なのか。それは、こうした犯罪を行うのが普通のマジョリティであることを確認するためだ。民族差別がエスカレートして放火事件にまで発展すると、犯行の動機や背景が明らかになっていないにもかかわらず、世間やマスコミは決まって犯人の「心理分析」を行おうとする。たとえば犯人は社会から疎外されて鬱屈した気持ちが高まっていたのではないか、家族と問題を抱えていたのではないか、などだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと)  埼玉工業大学非常勤講師、批評家
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿 
Twitter ID:@hokusyu82 『

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ワールド

南ア・エスコム、2年ぶりの大規模計画停電を実施

ビジネス

日銀総裁が緩和堅持表明、「世界的インフレの影響それ

ビジネス

小売販売5月は前年比3.6%増、ガソリン高騰・行動

ビジネス

寄り付きの日経平均は反落、値がさ株や半導体関連株が

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:広がるインフレ 世界経済危機

2022年7月 5日号(6/28発売)

急激なインフレ、食糧・エネルギー不足、米バブル崩壊...... 「舵取り役」なき世界経済はどこへ

人気ランキング

  • 1

    【モナコ王室】夫婦不仲説をシャルレーヌ公妃が一蹴、キスする姿も

  • 2

    食料品がこんなに高い!?インフレが止まらないNYの実態

  • 3

    メーガン妃「いじめ調査」結果はクロか? 「次は差別カードを切るはず」と王室作家

  • 4

    逆子の自然分娩「レクチャー映像」がトラウマ級

  • 5

    「中の人」の視点で終わった『東京2020オリンピック …

  • 6

    極超音速ミサイル「ツィルコン」はウクライナの戦況…

  • 7

    世界が見るウクライナ戦争の姿はフェイク? 「戦争PR…

  • 8

    アメリカで「転売ヤー」問題が少ない理由

  • 9

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復…

  • 10

    プーチン病気説の決定打?どう見ても怪しい動画

  • 1

    メーガン妃はイギリスで、キャサリン妃との関係修復を狙ったが失敗した(王室専門家)

  • 2

    アメリカで「転売ヤー」問題が少ない理由

  • 3

    メーガン妃「いじめ調査」結果はクロか? 「次は差別カードを切るはず」と王室作家

  • 4

    可愛くないはずがない...それでも女王が曾孫リリベッ…

  • 5

    逆子の自然分娩「レクチャー映像」がトラウマ級

  • 6

    【モナコ王室】夫婦不仲説をシャルレーヌ公妃が一蹴…

  • 7

    【映像】夫婦と愛犬、すんでのところで猛追クマから…

  • 8

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 9

    ヘンリー王子夫妻、娘リリベットの誕生日会に参加し…

  • 10

    BTS「V」熱愛報道は後輩グループの「醜聞隠し」のた…

  • 1

    治験中のがん新療法、18人全員の腫瘍が6ヶ月で消失 専門医「前代未聞」

  • 2

    女性を踏み殺したゾウ、葬儀に現れ遺体を執拗に踏みつけ去る インド

  • 3

    遺体ばかりか負傷兵も置き去り──ロシア軍指揮官のプロ意識がさらに低下(米戦争研究所)

  • 4

    【映像】突進してくるゾウの赤ちゃんが「ちっとも怖…

  • 5

    英ルイ王子の「やんちゃ」ぶりで、キャサリン妃に「…

  • 6

    極超音速ミサイル「ツィルコン」はウクライナの戦況…

  • 7

    インド人初のK-POPスター誕生へ 4000人から選ばれた…

  • 8

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 9

    中国側に「寝返った」ジャッキー・チェン、「父親が…

  • 10

    英ヘンリー王子夫妻、軽い扱いに「激怒」してイベン…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
ニューズウィーク日本版ウェブエディター募集
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メンバーシップ登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中