コラム

ナイキCMへ批判殺到の背景にある「崇高な日本人」史観

2020年12月03日(木)21時00分

ナイキのCM『動かしつづける。自分を。未来を。』の一場面 Nike

<日本人の在日コリアンに対する差別を示唆するCMに反発する人々には、本気で日本人は差別などしないと信じる「温室育ち」が多くいる>

ナイキジャパンが製作したPR動画、「動かしつづける。自分を。未来を。 The Future Isn't Waiting.」が、摩訶不思議な批判を受けている。

動画の再生回数は同社の公式ユーチューブサイトで約1000万回(20年12月3日現在)に迫るが、その中で日本人ユーザーのものと思われる批判コメントの殆どが所謂「ネット右翼」と呼ばれる層によるもので、「日本には人種差別は極めて少ない(よってこのCMはけしからん)」「日本に朝鮮人差別は無い、あったとしても理由があるから」「ナイキは反日企業だ、もう買わない」「朝鮮総連が日本人拉致に関与している事実をナイキは知っているのか」などと言ったコメントが多数を占めている。

このPR動画には主に3人の少年少女が登場するが、その中の一人は在日コリアンとみられ、チマチョゴリ姿でうつむきながら街を歩く様子や、恐らくそのエスニシティが理由で学校で「いじめ」にあっているさまが描かれている。嫌韓・反在日コリアンを金科玉条とする日本のネット右翼は、おそらくこの部分の描写が特に気に食わなかったのだろう。要約すれば今次のナイキCMに対する彼らの反応は、

日本には欧米のような人種差別問題は極めて少ないのに、ナイキのPR動画ではあたかも日本でも欧米同然の在日コリアンに対する人種差別が行われているような風潮を惹起させ、日本全体のイメージを貶めている

というものである。筆者は約10年間に亘ってネット右翼を観察し続けてきた。そればかりではなく、ネット右翼の世界に身を置いて言論活動を行ってきた経歴がある。その私からして、彼らがなぜナイキのPR動画にここまでの拒否反応を示すのか、の理解は容易い。一言で言えば、日本人は欧米人とは違って、人種差別などを行わない崇高な民族である、という「崇高な日本人史観」が背景にあるからである。これはどういうことだろうか。

「崇高な日本人」史観の嘘と、日本での人種差別の実例

まず、ナイキのPR動画に寄せられた否定的なコメントの中にある、上記の、日本では欧米のような人種差別問題は極めて少ない~というのはまったく事実ではない。2002年頃から勃興したネット右翼の中でも、街頭に出てデモ活動や示威行為等を行う行動派を「行動する保守」と分類するが、この行動する保守の筆頭格が、『在日特権を許さない市民の会』(以下在特会)である。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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