コラム

本当は中国政府の検閲にキレた? 問題発言のジャッキー・チェン

2009年04月21日(火)04時14分

passport10409.jpg

Bobby Yip-Reuters
 

 中国の温家宝(ウエン・チアパオ)首相も参加した中国海南省のボアオ・アジアフォーラムで、香港のアクションスターがこんなことを言った。


「自由というものがいいことかどうか、よくわからない」「今、私はとても混乱している。自由が行き過ぎると、今の香港みたいになってしまう。ひどい無秩序状態だ。台湾も同じだ」「私たち中国人は誰かに管理される必要があるのではないかと、だんだんそういう感じがしてきた。管理されないと、やりたい放題やってしまうから」


 この発言は、大陸中国はもちろん、台湾や香港のブロガーの間でも猛反発を招いている。「人種差別主義者」チェンの映画をボイコットする呼びかけもある。

 ワシントン・ポスト紙のジョン・ポンフレット元北京支局長は同紙電子版で、ここでは古典的な力学が働いていると指摘する。


 チェンはただ、他の多くの裕福な中国人が感じていることを言っているだけだ。天安門事件以降の20年間で、中国社会は大きく変わった。最も驚くべき変化は、階層社会が復活したことと、中国の富裕層が貧困層を蔑視するようになったことだ。中国人は「管理される」必要があるとチェンが言ったとき、彼はまちがいなく貧困層のことを言っていた。わざわざ口に出す必要はなかったが、ボアオの聴衆はチェンの発言に大喝采を送った。中国のエリート層と少しでも深く話をしたことがある者なら、必ず一度は聞く議論だ。


 私自身は背景をよく知らないが、少なくともチェンが皮肉を言っていた可能性は捨てきれないように思う。問題の発言は、検閲についての質問に対する答えのなかで出てきたものだ。チェンが主演する新作映画『新宿インシデント』は最近、暴力的だとして大陸での上映を禁じられた。チェンにとっては大きな収入減で、そういう結果をもたらした政策を声高に称賛するなんて奇妙としか思えない。

彼が階層差別主義者だったとしても、あるいは他のどんな政治信条の持ち主だったとしても、中国の貧困層が彼の映画を見る自由は認められて然るべきと思っているはず。それに、台湾や香港の多くのファンを侮辱するほど考えなしでもないだろう。

 チェンは、表立って中国政府の決定を批判できる立場にはない。行き過ぎ発言の真意は、彼の映画に神経を尖らせる中国当局に対する密かな当てこすりだったのではないか。それとも、私がチェンを買いかぶり過ぎているだけだろうか。

──ジョシュア・キーティング

Reprinted with permission from "FP Passport" http://blog.foreignpolicy.com, 24/04/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ワールド

米下院特別委、中国軍の台湾周辺演習を非難 「意図的

ワールド

仏独英、中国の台湾周辺軍事演習に懸念表明 一方的な

ワールド

サウジ、イエメン南部の港を空爆 UAE部隊撤収を表
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story