コラム

『中共壮大之謎』(中国共産党が強大化した謎)――歴史を捏造しているのは誰か?

2016年09月12日(月)16時00分

 番組では時間が足りなくなるであろうことを心配して、この中国人学者の不当な攻撃の中にある多くの間違い(虚偽の弁論)に、いちいち反論することは控えた。しかし万一にも視聴者の中に、彼の中国政府流の歪曲した内容を「事実」と解釈なさる方がおられるとといけないので、責任上、ここにいくつかの歪曲された事実に関する説明をしておきたい。

 筆者としては決して個人攻撃だけはしたくないので、この在日中国人学者の実名を書きたくないが、番組を見れば直ちに誰であるかが分かるので、明記することとする。東洋学園大学教授の朱建栄氏だ。ただ、彼に代表される「在日中国人研究家で日本の大学の教授」の何名かが事実を歪曲した中共擁護的言論を展開するので、自由ではあるものの、このような学者たちに教育を受けている日本の若者への影響を考えると看過できないものがある。そのために、いくつかを列挙する。

(1)まず冒頭に彼は中国のこんにちの発展に関して高い評価をした。それはあたかも「中国共産党が統治しているお蔭だ」というように聞こえるかもしれないが、中国だけで統治していたときには(毛沢東時代では)、貧乏のどん底にいた。ところが1972年に米中国交正常化に向けて動き出し(協定は1978年)、日中国交正常化をしたのちには、日米両国から膨大な経費的支援を受けて急速に成長していった。旧ソ連が1991年に崩壊した後は日米の重要性が小さくなり、日米が中国経済と技術発展の基礎を支えた上げたことは無視して、あたかも自分自身で経済大国になったような論を展開している。

(2)朱氏は盛んに「日中戦争が本格化する前まで、わずかしかいなかった中共軍が、なぜ日中戦争が終わるころには膨大な数に膨れ上がったのか」という問題を提起し、同時に「日本軍がどれだけ強かったかという事実」とともに、「だから、それは中共軍が日本軍と勇敢に戦った証拠だ」という論理展開を何度も行っている。

 これは非常に矛盾する論理で、そんなに強い日本軍と戦ったのなら中共軍の戦死者が多く、中共軍は減るはずで、謝幼田氏の分析結果と完全に逆の結論だ。

 謝幼田氏は、「それこそが、中共軍が日本軍と戦わなかった何よりの証拠」として中共側資料から事例を数多く上げて結論を出している。 謝幼田氏の結論は「日本軍との戦いは国民党軍に任せ、中共軍は洛川会議の決議通り、10%の兵力だけしか抗日戦争に使わず、70%は中共軍の拡大に力を注いだので、その結果(2万人ほどにまで)激減していた中国軍は日本が敗戦を迎えるころには(百万人ほどまで)膨大に膨れ上がっていた」、と結論付けている。謝幼田氏の分析は整合性がある。

(3)毛沢東が一生涯(1976年9月9日の死去まで)、なぜただの一度も、いわゆる「南京大虐殺」を7000頁におよぶ『毛沢東年譜』に残さなかったのかに関して問われると、「じゃあ、平頂山事件(へいちょうざんじけん)に関して記録しているか」という、関係のない話で回答をずらした。平頂山事件は1932年9月に起きた事件で、400人から800人ほどの住民が犠牲になったとされている(中国側資料で3000人)。

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

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