コラム

『中共壮大之謎』(中国共産党が強大化した謎)――歴史を捏造しているのは誰か?

2016年09月12日(月)16時00分

 筆者が言っているのは中国が毛沢東の死後に言い始めた南京事件(中国では南京大虐殺)のことで、中国は日本に対する歴史カードとして南京事件を日本に突き付けユネスコの世界記憶遺産にまで登録している。毛沢東は生涯、この事件を無視しただけでなく、教科書で教えることも禁じた。それをどう説明するつもりかと問うているのである。

 それには回答せず(回答できず)、他の数百人の事件で回答をすり替えるのは学者的ではない。

(4)筆者や謝幼田氏が主張していることは、かつて中国共産党中央の総書記をしていた王明という人の記録に克明に書いてある。朱氏は、「これはコミンテルンからも中国政府からも完全に否定された」と反論してきたが、コミンテルンは否定していない(最近解禁となったコミンテルンの極秘文書では積極的に肯定している)。また中共中央自身が「内部資料」として、わざわざロシア語で書かれた王明の手記を『中共50年』(東方書店)として中国語に翻訳し、指導層が一生懸命に勉強した。内部資料は今ではネットで誰でも読める。たとえばこれなどがあるが、ダウンロードはしない方が安全かもしれない。本自身を入手することも可能だ。

 まだまだ日本人に誤解を与えてはならないことを数多く書かなければならないが、長くなり過ぎるので、またの機会にしたい。

 非常に気になったのは、こういう偏った、完全な中共擁護に徹した教授が、純粋無垢な日本の若者たちに、大学の授業を通して「中国政府の主張に基づく歴史観を刷り込んでいくこと」の危険性である。そうでなくとも日本は贖罪意識や経済的に不利になっては困るといった配慮から、真実を言うことをためらう人が少なくない。

 日本国全体の問題として、あるいは今後の日中関係において、今回の対談で、そこに潜んでいる危険性にハッとした。

 かつて旧ソ連のコミンテルンは全世界を「赤化」するために、アメリカや日本などにコミンテルンのスパイを送り込んで、その国の思想コントロールにかなり成功している。

 それは「過去」のことだが、現在と今後の「情報戦」あるいは「思想戦」は、言論の自由、思想の自由が保障されている現在の日本の盲点の一つかもしれない。

(なお、筆者は個人的には朱建栄教授を長年にわたり尊敬してきた。彼ならばきっと冷静で正義を重んじる論理を展開してくれるものと信じて、対談相手が朱建栄教授であることに大いなる期待をしたことを付け加えておきたい)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

プロフィール

遠藤誉

中国共産党の虚構を暴く近著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)がアメリカで認められ、ワシントンDCのナショナル・プレス・クラブに招聘され講演を行う。
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story