コラム

「消費税の国」フランスが教えるその功罪

2012年05月28日(月)09時00分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー

〔5月23日号掲載〕

 日本の政治家の皆さんへ。日本在住のフランス人として、消費税について私自身の経験を踏まえてアドバイスしたい。

 日本人は芸術や人生を楽しむフランスのライフスタイルに加えて、フランスの付加価値税(消費税)も称賛するようになったらしい。日経ヴェリタスは2月19日付記事で、フランスではニコラ・サルコジ大統領が消費税率を現行の19・6%から10月に21・2%に引き上げる考えを示したことを紹介。日本の消費税率を10%に引き上げてもまだ低過ぎるのではないか、と結んでいる。

 確かにワインとチーズばかりがフランスじゃない。消費税の一種である付加価値税もフランス生まれ。財務官僚のモーリス・ローレが54年に考案し導入した。政府にとって消費税は「天の恵み」のようなもので、生みの親ローレはフランスでは偉人であり「英雄」だ。

 楽々と税金を徴収できる消費税は、いってみれば出来過ぎている。納税者が所得を減らして所得税を減らすのは簡単だが、消費税をごまかすのは不可能に近い。「消費税はフランス史上最高の発明品」と、あるフランス人外交官は言った。「公務員給与の財源として最高」という意味だろう。

 消費税はフランスの年間税収の半分を占める。所得税の3倍だ。消費税のおかげで政府の財源が豊かになった半面、納税者の負担は重い。フランスの消費税率は現在、OECD(経済協力開発機構)27カ国中5番目に高い(日本は23番目)。

 でもいくら消費税が高くてもフランス人は反対しない。サルコジは2月29日、19・6%から21・2%への引き上げを議会に承認させたが、世論の反発は少なかった(サルコジが再選を果たせなかったのは別の理由による)。

■「未来の収入」という意識がカギ

 日本の政治家がまねをしたくなるのも無理はない。しかしその前に、短気なフランス人が高い消費税率を受け入れている理由を理解すべきだ。そうすれば日本政府を救う一助になるかもしれない。

 消費税への反対意見で最も根強いのは、経済状態に関係なく、どの国民も一律に打撃を受けるから不公平だ、というものだ。そこでフランスでは低所得層を守るため、医薬品、新聞、観劇チケット、電気料金、食料品などについては19・6%の標準税率より低い「軽減税率」を設けている。さらに、消費税は払う側には「見えない」。商品の価格に含まれている上、レシートにも書かれない。

 何よりも、フランス人が高い消費税をおとなしく払うのは、それを支出ではなく収入の道と見ているからだ。フランスでは日本よりもはるかに、国民の日々の暮らしに国家が関与している。無償の医療制度や教育制度が整備され、社会的セーフティーネットも万全だ。日本では勤続20年で年収600万円の40歳のサラリーマンが失業すると、月額21万円の失業手当が9カ月間給付される。信じ難いかもしれないがフランスなら給付期間ははるかに長く、給付額はその3倍だ。

 要するにフランス人にとって消費税は「未来の収入」のようなもの。就職前の教育費、病気で働けないときの薬代、退職後の生活費を賄う。納めた税金は日本では信頼を失った年金制度に消えていくが、フランスではいずれ納税者自身に戻ってくる。日本政府がもっと納税者のことを考える姿勢を見せない限り、日本の納税者は納得しない。

 一方で、高い消費税率は起業家精神に水を差すこともお忘れなく。料理1品につき19・6%の消費税を払うなんてレストラン経営者には酷だ。このことも、レストランがパリには少なく東京にはあふれている一因だろう。

 親愛なる政治家の皆さん、起業家精神に水を差し、失業率を上昇させ、結果的に税収が減ってもいいのなら、フランスの例に倣おう。ただしその場合は手厚い社会保障も忘れずに!

プロフィール

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・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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