コラム

カジノ合法化より問題? 日本人のギャンブル好き

2014年04月09日(水)12時05分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー
〔4月1日号掲載〕

 日本で今、国会議員がこぞって取り組んでいるのに国民の間ではまったく話題になっていない課題──それはカジノだ。カジノ解禁を目指す国会の「カジノ族」は、数では最大の集団になっている。一部を除けば、日本の政治家は次第にカジノ合法化は正しいことだと考えるようになっている。超保守派の下村博文文部科学相でさえ、お台場にカジノを構えたいと発言した。

 自民党などが昨年提出した「カジノ法案」が6月までに成立すると予測して、ロビー活動も熱を帯びている。2月に東京で開かれたカジノに関する国際会議では、複数の外国のカジノ運営会社が解禁後をにらんだ壮大な構想を披露した。日本はギャンブル天国マカオに次ぐ可能性を秘めた大市場として期待されている。

 日本側の期待はそれ以上だ。エンターテインメント業界は、ラスベガスのようなショーでアジア中から観光客を引き付けることを夢見ている。ホテルやレストラン業界は、シンガポールのようにカジノが業界の活性化につながることを期待している。シンガポールのカジノ解禁が、そもそもは99年に石原慎太郎都知事(当時)が打ち出したカジノ構想に対抗するためだったことを思えば、皮肉な話だ。

 しかしビジネス界の興奮をよそに、一般市民はカジノ解禁に及び腰だ。私はこの問題を2年間追い掛けているが、解禁に賛成する日本人に会ったことがない。日本人はカジノが、売買春やギャンブル依存症や組織犯罪などの社会悪をもたらすのではないかと恐れている。

■和製ギャンブルにも落とし穴

 政治家たちは、カジノ解禁の目的は「外国人観光客」を呼び込むことで、日本人に誘惑の魔手が及ぶことはないかのように言いたがる。カジノにおいてギャンブルの比率はごくわずかで、ほかにもいろいろと娯楽があるとも言う。

 だが確かなのは、カジノが解禁されれば客の大部分は日本人になるということだ。大成功を収めていると日本ではいわれているシンガポールのカジノでさえ、今では客の多くはシンガポール人だ。

 それに、ほかにどんな娯楽があろうとカジノの主な収入源はギャンブルだ。「カジノでギャンブルは大して重要じゃないなんて言うのは、バーでホステスが重要じゃないと言うようなものだ。カジノに行く一番の目的はギャンブルなんだから」と、あるカジノ通は言っていた。

 日本人は何世紀も前からギャンブルの誘惑に負けてきた。720年に完成した日本書紀には685年の賭け事の記述があるし、宝くじは1575年には存在していたともいわれる。今や日本にはマージャンから携帯ゲームのコンプガチャ、キャリートレードのような投機的な金融取引までさまざまな形のギャンブルが存在する。文字どおりのギャンブルなら競馬、競輪、競艇、オートレースがある。

 最大のギャンブルはもちろんパチンコだが、法的にはギャンブルではなく「娯楽」。日本のメディアはカジノに対してほど目くじらを立てないようだが、パチンコにはひどく不透明な部分がある。入り口で身元確認をしない場合が多いので18歳未満でも自由に入店できる。パチンコ依存症の本格的な調査はないが、日本の家計貯蓄のかなりの部分がパチンコに消えているのは確実だ。

 何よりショックなのは、東北地方でパチンコ店が繁盛しているという話だ。被災地復興のために長時間働いて疲れ切った建設労働者などが、気晴らしを求めて給料を夜な夜なパチンコにつぎ込んでいる。日本政府は見て見ぬふりだが、稼いだ金を全部パチンコにつぎ込んでいたら、10年後は一体どうなるだろう。

 パチンコの存在が許され、2.1%の復興特別所得税の多くが巡り巡ってパチンコ店に消えている日本で、カジノだけが危険視されるのも不思議な話だ。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

出口局面で財務悪化しても政策運営損なわれず、正常化

ワールド

焦点:汚染咳止めシロップでインドなど死亡数百件、米

ワールド

アングル:COP28、見えない化石燃料廃止への道筋

ワールド

OPECプラス閣僚会合、現行政策調整の可能性低い=

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済が世界に不況の火種をまき散らす

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    エリザベス女王も大絶賛した、キャサリン妃の「美髪」6選...プリンセス風ブローから70年代スタイルまで

  • 2

    ワグネル傭兵が搭乗か? マリの空港で大型輸送機が爆発、巨大な黒煙が立ち上る衝撃映像

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    ウクライナ「戦況」が変わる? ゼレンスキーが欲しが…

  • 5

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 6

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「ク…

  • 7

    新型コロナ「万能ワクチン」が開発される 将来の変…

  • 8

    ロシア軍スホーイ戦闘機など4機ほぼ同時に「撃墜」され…

  • 9

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があっ…

  • 10

    ワグネルに代わるロシア「主力部隊」の無秩序すぎる…

  • 1

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 2

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 3

    本物のプーチンなら「あり得ない」仕草......ビデオに映った不可解な行動に、「影武者説」が再燃

  • 4

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...…

  • 5

    ウクライナ軍の捕虜になったロシア軍少佐...取り調べ…

  • 6

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 7

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 8

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「ク…

  • 9

    ロシア黒海艦隊、ウクライナ無人艇の攻撃で相次ぐ被…

  • 10

    NATO加盟を断念すれば領土はウクライナに返す──ロシ…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    黒海艦隊「提督」の軽過ぎた「戦死」の裏に何があったのか

  • 3

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗組員全員死亡説も

  • 4

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 5

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 6

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部…

  • 7

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 8

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 9

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

  • 10

    爆撃機を守る無数のタイヤ、ドローン攻撃に対するロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story