コラム

僕の「非国民的」マニフェスト

2009年08月24日(月)17時06分

今週のコラムニスト:コン・ヨンソク

 いよいよ待ちに待った総選挙が行われる。麻生太郎首相が解散を引っ張ってくれたおかげで、国民の政治や選挙に対する関心は高まり、長らく続いた自民党主導の政治社会体制に厳しい審判が下されるだろう。箸を持って待っているのに、なかなか料理が出てこない時ほど、評価は厳しくなるものだ。

 自民党のホームページには、「日本を守る、責任力。」と書かれ、その横に麻生総理の決意の顔がある。だが、僕にはどうしても「自民党(あるいは首相の座)を守る、鈍感力。」に見えてならない。僕が自民党広報なら、「自民反省⇒日本再生」にして徹底的に、反省と出直しを強調したであろう。

 これほど選挙への関心が高まると、自分が参政権を持たない外国人であることがはがゆい。日本在住20年以上、納税の義務を果たし、日本の政治外交史を専攻し、日本人の学生に日本語の指導をしているのに、僕には参政権がない。仕方ない。ここは、いつか自分が立候補する日を夢見て「非現実的」なマニフェストでも掲げてみよう。

 僕が立ち上げる政党は、その名も「非国民党」。国民国家の暴力性とそれを支える(排外的)ナショナリズムの不毛性には、多くの人が疑問を抱いているはずだ。国民である前に市民であるということ、一国政治よりもグローバル・ガバナンスを考えることは、けっして理想主義ではない。むしろトランスナショナル化する現実の世界秩序の潮流を反映していると言えよう。

1.国家像
 非国民党のマニフェストの第一は開かれた「移民社会」を目指すこと。日本社会では、移民や外国人参政権問題は既存政党が提起しづらいイシューだ。だが、日本は歴史的に朝鮮半島・大陸をはじめとして、全方位的に移民・流民を受け入れ、その多様な文化の融合を通じて独自の文化を花開かせてきた国。いわば東洋のフロンティアだったのだ。

 高齢化する日本社会の再生のためにも、この問題は避けられない課題だろう。かつて日本が移民を送り込んだ南米から逆に移民を受け入れれば、今は失笑を買っているサッカーW杯ベスト4という目標も現実のものになるかもしれない。

2.外交
 外交における最優先課題は日朝国交正常化だ。外務省HPによれば世界には193の国があるが、その中で日本と唯一国交がないのがお隣の北朝鮮だ。来年は韓国併合100周年であり、そろそろ北朝鮮との和解を進めてもいい時期だ。ビル・クリントン元米大統領に続き、小泉元総理に3度目の訪朝を促したい。

3.安全保障
 税金の「ムダづかい」が強調されているが、安全保障にかかるコストも再考の余地がある。北朝鮮や中国の軍事的脅威を煽って、莫大な予算のミサイル防衛システムを構築して日米の軍需産業を潤すのではなく、平和的秩序を構築することを最優先させる。

 さらに首脳同士が頻繁に会えば、基本的なコストは飛行機代とホテル代だけだ。北朝鮮に対する援助も先行投資に他ならない。そして、日本を東アジアの平和拠点に設定し、憲法9条を東アジア安全保障の基本軸にするよう韓国などアジアの市民社会と連携する。これこそ、僕の本当の夢だ。

4.教育
 僕が特に力を入れたいのは教育だ。愛国心ならぬ「愛外国心」教育を行いたい。現場にいる者の印象として、日本人学生の「愛日本心」は十分すぎるくらいにある。今、必要なのは共に歩むべき他者に対する関心と敬愛の心だ。「世界を愛し世界に愛される日本」を目指す。小中高生の時からアジアや世界についてもっと学び、アジア各国、国内の朝鮮学校への交換留学を奨励したい。

5.景気対策
 経済の建て直しのためにも景気対策は欠かせない。そこで非国民党の目玉のバラマキとして、「ナショナリズム手当」を支給する。これは人種差別、民族差別、歴史的妄言など、ナショナル・アイデンティティを理由に差別や偏見にさらされたり、精神的苦痛をこうむった人々に手当をするというものだ。日常的には、WBCでイチローを批判して袋叩きにあった「非国民」にも支給される。

 目的は国民主義者たちの排外的ナショナリズムから、非国民および外国人の精神的・身体的健康を守り、健康な社会にすること。もちろん、外国の行き過ぎた反日感情から日本人の精神的健康を守ることにも適用される。ネット時代の今に必要な措置といえよう。

6.財源
 景気対策の財源としては、「ナショナリズム保険」を設ける。政治家や閣僚が妄言を吐けば、その都度、見舞金(保険金)が支払われる仕組みだ。日本の指導者が節度ある行動をとれば、被保険者たちも平穏に暮らせ、掛け金ももったいなくないと感じるだろう。

7.社会
 非国民党は「感謝」を基本精神とする社会を目指す。年金、医療、教育、環境、食の安全保障......。すべてにおいて要求ばかりでなく、お互いが感謝する気持ちが大切だ。親に、食えることに、学べることに、年金保険料を支払っている世代に、円高の恩恵をくれるアジアの民衆に感謝する社会を作りたい。

 そして8月30日。夢から醒めた僕は、花とダルマとバンザイが繰り返し映し出される、旧態依然とした選挙特番に目をやることだろう。筑紫哲也をなつかしがりながら。

プロフィール

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・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
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