コラム

『サウスパーク』がサリンジャー追悼! 「げろげろ畑でつかまえて」

2010年04月01日(木)11時36分

 サリンジャーは生前、自分の小説の映画を許可しなかった。『フィールド・オブ・ドリームス』映画化の時も、原作どおりサリンジャーを登場させることはできなかった。

 でも、今はどうなんだろう? 遺書には「映像化を永遠に禁じる」とか書いてあるのかな?

 3月21日にアメリカで放送されたTVアニメ『サウスパーク』はサリンジャーがテーマだった。

 「今日はみんなにこの本を読んでもらいます」

 サウスパーク小学校のギャリソン先生は段ボール箱いっぱいの『ライ麦畑でつかまえて』を持って4年生の教室に現れた。

 「読書かよー。オレ、大っ嫌い」

 勉強嫌いのカートマンが文句を言うが、先生は続ける。

 「これは今まで教育委員会に禁じられていた本です。言葉が強烈です。今でも図書館によっては置いていません」

 「先生、これって、読んだ奴が人を殺したって本ですか?」 主人公のスタンが尋ねる。

 「たしかにジョン・レノンを殺した犯人はこの本に影響されたと言いましたが、あいつはただのバカです!」

 「すっげー! ヤバイじゃん! め、めっちゃ読みてー!」

 カートマンはじめ、子どもたちはワクワクで読み始めた。

 「......うーん。これのどこがヤバいの?」

 スタンとカイルはしばらく読んで首をヒネる。そこにカートマンとケニーが飛び込んできた。

 「全部読んだけど、チラっと汚ない言葉が出てくるだけ。それだけ! 時間のムダだった!」

 「じゃあ、本当にヤバい話をぼくらで書いてみようぜ!」

 仲良し4人組は一緒に毎日少しずつ小説を書き始めた。

 ある日、スタンのママが洗濯物を洋服ダンスにしまおうとして、引き出しの奥に紙の束を見つけた。表紙には「スクロッティ・マクブガーボールズの物語」とあった。日本語にすると「キンタマ袋・鼻クソ玉の物語」となる。ママは読み始めた。

 「暖かな夏の朝、マクブガーボールは目覚めると彼の......オエッ、彼がつかんだのは犬の......うっ、げ、げろげろげろげろげろげろげろー!」

 あまりのエゲツない描写を読んだママはゲロを部屋中にまき散らした。

 「あなた! あなた! 大変よ!」

 ゲロまみれのママはパパを呼んだ。

 「これ、子どもたちが書いたんだけど、読んでみて!」

 「なぜ?」

 「この小説、......傑作よ!」
 
 「え?」

 「こんなおぞましいものは生まれて初めて読んだけど、プロットは秀逸だし、キャラクターも生き生きしてるのよ!」

 どれどれ、とパパが読んでみると、やっぱりげろげろげろー。

 「オエーッ、でも感動した!」

 街の大人たちはその小説を回し読みし、みんなゲロ吐きながら大感動。スタンたちを呼びつける。
 
 「この小説を書いたのはあなたたちね?」

 叱られると思ったスタンたちは「バターズが夢遊病状態で書いたんだよ!」とイジメられっ子のせいにする。

 「バターズ、君は天才だ! あまりに素晴らしい本なので、出版が決まったよ!」

 『スクロッティ・マクブガーボールの物語』は国際的なベストセラーになり、全世界がゲロの海に沈んだ。

 バターズが大スターになって威張りだしたので頭にきたスタンたちは教育委員会に訴え出る。

 「こんな本、禁止すべきです。ただの下品なゴミ小説で、何の意味もありません」 書いた本人が言ってるのに、大人たちは「君たちにはわからないんだ。行間に隠された意味が」と聞く耳もたない。『ライ麦畑』と逆さまの状況!

 「こうなったら『ライ麦畑』みたいに、『スクロッティ・マクブガーボール』に影響された殺人事件が起こればいいんだ!」

 スタンたち4人は『スクロッティ~』の文中465回も「ブサイク」と罵倒されるサラ・ジェシカ・パーカーを森の中に放置する。彼女の馬面をハンターが鹿と間違って撃つように......。

 しかし、これほどリアルな嘔吐シーンが連続するアニメも前代未聞だ。さすが『サウスパーク』。この前の週のエピソードのネタはタイガー・ウッズ謝罪。この次の週はケンタッキー・フライド・チキンの店が医療用マリファナ販売所になる話だった。

プロフィール

町山智浩

カリフォルニア州バークレー在住。コラムニスト・映画評論家。1962年東京生まれ。主な著書に『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文芸春秋)など。TBSラジオ『キラ☆キラ』(毎週金曜午後3時)、TOKYO MXテレビ『松嶋×町山 未公開映画を観るテレビ』(毎週日曜午後11時)に出演中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利は「中立」水準、追加利下げ不要=セントルイス

ワールド

トランプ氏、ウクライナ紛争終結「合意近づく」 ロ特

ワールド

トランプ氏「イランは合意望む」、プーチン氏はイラン

ワールド

国連事務総長、財政危機を警告 7月に運営費枯渇の可
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story