コラム

【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ステーション補給機の価値 「人類のさらなる可能性切り開く鍵に」

2025年11月02日(日)09時40分

油井さんは10年前の初めてのISS滞在中に「こうのとり5号」をキャプチャしたことがあり、ロボットアーム操作の巧みさには定評がある。当時、フライトディレクタとして管制室から見守り、HTV-Xの開発にも携わった内山崇さんは、JAXAのライブ配信で「本当にスムーズで素早いキャプチャだった。管制室のメンバーも『後先にもこれほどスムーズなキャプチャはないのではないか』と驚いていた」と振り返る。

自身もアメリカのISS補給機「シグナス」をキャプチャした経験がある大西卓哉宇宙飛行士は、同ライブ配信で「補給機側にあるピンをロボットアームでキャプチャする訓練を、宇宙飛行士は数年かけて行っている。シミュレーターはISSにもあるので、油井さんも直前まで練習しているはずだ」と解説し、キャプチャの瞬間は「非常に安定したスピードで、非常に安定したポジで、さすが。いいですね、最後までちゃんとアラインしている(ずれなく一直線に並んだ状態)」と感嘆した。


ドッキング成功直後、油井さんは「日本の宇宙計画における歴史的なイベントです。この宇宙船は美しく輝いており、私たちの明るい未来を象徴しています。この金色の宝箱を開けるのがとても楽しみです」と英語で語った後、日本語で「無事に到着しました。日本が高い技術力で国際的な宇宙開発に貢献していることを知り、国民であるみなさんに誇りを持っていただけたらうれしいです」と話した。

また、JAXAの星出彰彦宇宙飛行士は、NASA(アメリカ航空宇宙局)の管制室でISSとの交信を担当した。星出さんは油井さんの言葉を受けて、「日本のみなさん、おめでとうございます。先代のこうのとりに新しい技術を加えたHTV-Xは、ISSをはじめとする地球低軌道、そして月まで含めて、人類のさらなる可能性を切り開く大きな鍵になります。引き続き一丸となって、新しい未来を切り開いていきましょう」と、日本語でライブ視聴者に呼びかけた。

4.地上関係者の喜び

先代のこうのとりからHTV-Xに引き継がれた日本製ISS補給機の大きな特徴が、「ロボットアームによる手動ドッキング」だ。自動ドッキングよりも手動のほうがソフトにISSに結合できるので、振動を減らせる。これは、HTV-Xの積荷に対して利点があるだけでなく、ISS本体への衝撃も軽減できる。

今でこそ各国のISS補給船が手動ドッキング方式を採用しているが、先代のこうのとりでフライトディレクタを務めた麻生大さんは「前代未聞だったため、開発当初はNASAから『手動(ドッキング方式)にするならISSには付けさせない』とまで言われた」と振り返る。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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