コラム

7つのキーワードで知る「土用の丑」とウナギの今──完全養殖に高まる期待と「シャインマスカットの反省」

2025年07月19日(土)10時00分

2.なぜ夏の土用の丑にウナギを食べる習慣ができたの?

「夏の土用の丑」にウナギを食べる習慣の由来で最も有力視されているものは、「江戸時代に平賀源内が宣伝文句を考えたから」という説だ。

当時のウナギはすべて天然産のため、旬は脂がのる秋~冬だった。夏は閑散期だったため、困った鰻屋がアイデアマンとして名高かった発明家の平賀源内に相談したところ、もともと「丑の日に『う』のつくものを食べると病気をしない」という伝承があった(※当時は梅干しや瓜、うどんを食べていた)ことから、「鰻屋の店先に『本日、土用の丑の日』と張り紙を出すように」と助言を受けた。


ウナギは当時も「精のつく食べ物」として知られていたため、江戸っ子たちはこの新しい提案を喜んで受け入れた。それを見た他の鰻屋も真似をするようになり、江戸から全国へと広がっていったということだ。

現代の栄養学では、ウナギにはビタミンB1が豊富(蒲焼100グラム当たり約0.75ミリグラム)に含まれていることが知られている。ビタミンB1には食欲不振の改善や疲れにくくする効果があるとされるので、確かに夏バテに効果がある食品と言えそうだ。

ところで、日本人はいつ頃から「ウナギは精のつく食べ物」と考えていたのだろうか。

和歌の名手「三十六歌仙」の1人に挙げられ、『万葉集』の編纂に関わったことでも知られる大伴家持(おおとものやかもち)は、万葉集の中に自らが詠んだ「ウナギの歌」を2首掲載した。


石麻呂に 吾れもの申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻(むなぎ)とり食(め)せ
<巻16‐3853>

意訳:石麻呂さんに私(家持)は申し上げます。夏痩せに良いそうですから鰻を獲って食べなさいな。


痩す痩すも 生けらばあらむを 将(はた)やはた 鰻を漁(と)ると 河に流れな
<巻16‐3854>

意訳:痩せていても生きていられれば良いではありませんか。もしかして、鰻を獲ろうとしていませんか。河に入って流されてはいけませんよ。

万葉集に記載があるということは、奈良時代には少なくとも貴族階級にウナギの滋養が知られていたようだ。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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