コラム

7つのキーワードで学ぶ「プラネタリーディフェンス」 天体衝突から地球を守る活動、その「これまでの成果」とは?

2025年05月02日(金)19時10分

2.地球近傍天体(NEO)って何?

小惑星、彗星、流星体など太陽系にある小天体のなかで、地球軌道に接近する軌道を持つ天体の総称。2025年4月末時点で144万個以上の小惑星、4500個以上の彗星が発見済で、その軌道が算出されている。そのうちNEOは約3万8000個である。

約6600万年前に恐竜絶滅を引き起こした小惑星は約10キロと見積もられているが、このスケールの大きさのNEOは現在までにほぼ発見されており、近い将来の衝突の危険はないと考えられている。また、大きさが1キロ以上のNEOに関しても21世紀になってから発見個数にほとんど変化はなく、米コロラド大学ボルダー校を中心とする研究チームは2023年に「少なくとも向こう1000年間は1キロ以上の天体が地球に衝突することはない」と算出した。


3.近年、被害があった天体衝突(隕石落下)にはどのようなものが?

1908年6月30日、推定直径50~60メートルの天体がロシア帝国のツングースカ川流域の上空で爆発。爆心地から半径約30~50キロの森林が炎上、東京都とほぼ同じ面積(約2150平方キロ)の範囲で樹木がなぎ倒された。

2013年2月15日には、推定直径17メートルの天体がロシア連邦チェリャビンスク州の上空で複数の破片に分裂。約1500人が負傷し、南北180キロ、東西80キロにわたる建物が被害を受けた。

日本では2018年9月26日、愛知県小牧市の民家に隕石が落下し、屋根に穴を開けた。直径約10センチの破片が見つかった。

4.プラネタリーディフェンスのこれまでの具体的な成果は?

NEOを早期発見し、何度も追跡観測して軌道を正確に推定することが何よりも重要である。これまでにNEOの約95%が発見されたと見積もられている。

地球に衝突しそうな天体を回避する方法として、「天体に物体を衝突させる(インパクト)」「引力で天体を牽引する(グラビティートラクター)」「核エネルギーで軌道を変える」「イオンビームを照射する」などが検討されているが、現時点で技術的に可能な方法は「インパクト」のみ。実際にNASAが2022年、直径約160メートルの小惑星ディモルフォスに軽自動車ほどの大きさの探査機をぶつけて軌道を変える「ダート(DART)計画」を成功させている。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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