コラム

大西卓哉宇宙飛行士「きれいごとではなく、僕らのリアルを知ってほしい」【独自インタビュー】

2025年03月14日(金)08時55分
大西卓哉

大西卓哉宇宙飛行士 筆者撮影

<米国出発前の大西卓哉さんに聞いた、宇宙開発におけるAIの役割、民間の勢い、自身の強み、惑星探査時代への思い、子供たちに伝えたいこと>

JAXA宇宙飛行士の大西卓哉さんは日本時間13日午前、ISS(国際宇宙ステーション)に宇宙船「クルードラゴン(Crew-10)」で向かう予定でしたが、延期となりました。

打ち上げを実施するスペースX社およびNASA(米国航空宇宙局)は、延期の原因は地上システムの不具合と発表し、打ち上げ予定日時を日本時間15日午前8時8分以降に再設定しました。


今回のISS滞在が2016年以来、2度目となり、船長も務める大西さんに、米国出発前にインタビューをしました。

後編となる本記事では、「宇宙開発におけるAIの役割」「惑星探査時代への思い」「子供たちへのメッセージ」などについて大いに語っていただきました。「9年前の初回宇宙滞在との意識の違い」や「宇宙と地上との連携の大切さ」について深堀りした前編も併せてご覧ください。

◇ ◇ ◇

──近年の宇宙開発について伺います。前回、大西さんが宇宙に滞在した2016年当時と比べて急速に台頭したものとして、AIと民間の宇宙事業が挙げられると思います。まず「AIは宇宙開発にどう食い込んでいくのか」について、大西さんのお考えを教えて下さい。

大西 感触としては、AIは一般の産業分野と比べるとまだまだ僕らの分野には入ってきていないですね。宇宙はまだ事例が少ないからなんでしょうかね。

AIの強みって、膨大な情報量をバックグラウンドにAI自身が情報を取捨選択して最適化して働いているというイメージなのですが、宇宙開発はどうしてもまだまだ歴史が浅いですし、ミッションの数も他の一般的な産業と比べたら全然少ないですからね。だから、入り込む余地はまだそんなにはないのかなと思っています。

加えて、宇宙は安全という部分が非常に重視されるので、そこはどうしても人間の手でダブルチェックしていくことになります。そういう意味でも、AIが入ってきているって実感はまだあんまりないですね。

なので、もし今後、僕らの世界にAIが入ってくるとしたら、例えばロジスティックな部分──宇宙ステーションの中にはものすごい数の物品があるんですけれど、そこをいかに効率的に管理するか──というようなところかもしれません。そういう付随的な部分ではAIが入る余地はあると思いますけれど、中心の部分はあくまで人だと思います。

──宇宙飛行士としては、やっぱりまだAIには命を預けられないような感覚ですか。

大西 そうですね。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍「ガザ市40%掌握」、退去命令に抵抗の

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的連携強化を確認 「運命共にす

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米雇用統計待ち

ビジネス

段階的な利下げが正当、経済が予想通り推移なら=NY
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story