コラム

7つのキーワードで学ぶ「プラネタリーディフェンス」 天体衝突から地球を守る活動、その「これまでの成果」とは?

2025年05月02日(金)19時10分

5.近年、地球に接近する天体で話題となっているものは?

「2024年末に発見された小惑星2024YR4(25年3月の観測で直径約60メートルと推定される)が、2032年12月22日に地球に衝突する可能性は1.3%」とIAWN(International Asteroid Warning Network)が25年1月末に発表。その後、各所の天文台で観測され、より正確な軌道計算がされた。一時期、衝突確率は3.1%と発表されたが、現在は0.004%と結論付けられている。

2029年には、直径約340メートルの小惑星アポフィスが地表から約32000キロのところを通過する。2004年に発見された当初は2029年4月13日に地球に衝突する可能性があると考えられたが、すぐに否定された。


6.2025年7月5日に天体衝突は起こるの?

夢日記を漫画化した『私が見た未来』で「東日本大震災を予知した」と注目を集めた漫画家・たつき諒氏が、21年に発表した『私が見た未来・完全版』(飛鳥新社)で「本当の大災難は2025年7月にやってくる」と予言。「日本とフィリピンの中間地点の海底で何かが破裂し、大津波が発生する」という予知夢から「天体衝突が起こるのではないか」と噂が広まっている。

ただし、まっとうな惑星科学者で「2025年7月5日に天体衝突し、大災害が起きるという説に科学的根拠がある」と考える者は皆無である。JAXAプラネタリーディフェンスチームの吉川真・チーム長や、JAXA宇宙科学研究所の藤本正樹所長はインタビューで明確に否定している。

7.最新のプラネタリーディフェンス計画にはどのようなものがあるか

2026年12月、ESAの探査機Hera(ヘラ)が二重小惑星(片方はNASAがダート計画で軌道変更実験を行ったディモルフォス)に到着予定。ダート計画と連携して史上初の本格的なプラネタリーディフェンスの技術実証を行うとともに、惑星の形成・進化の過程の理解に迫る。日本も熱赤外カメラの提供や科学研究で参加する。

RAMSES(ラムセス)は小惑星アポフィスを観測する探査機および計画で、ESAが主導して現在検討されている。2029年にアポフィスが地球に接近するタイミングで地球の重力に対する反応などを観測する。JAXAも参画する見込み。ただし、探査機を約1年前に打ち上げる必要があり、時間的な制約が危惧されている。

JAXAの探査機「はやぶさ2」は、2019~20年に地球近傍小惑星リュウグウに到着しサンプルリターンに成功した。その後、拡張ミッションとして26年に推定直径約500メートルの小惑星トリフネの近くを通過した後、31年に推定直径約30メートルの小惑星1998KY26 を探査する予定だ。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story