コラム

古川聡さんに聞いた宇宙生活のリアル...命を仲間に預ける環境で学んだ「人を信じること」の真価

2024年12月04日(水)17時00分

古川さんは一般向けに行われたミッション報告会で「宇宙での経験で最も伝えたいことは、しっかり仲間とコミュニケーションを取りながら力を合わせて仕事をしていくことの大切さだ」と語り、その理由を「1人でできることが、チームになるとそれが何倍にもなって、相乗効果があるから」と説明しました。

また、報告会では古川さんの「大学教授のような個性」が随所に表れていました。講演で使ったプレゼン資料は、無重力の追体験ができたり、ロボットアームの動きの面白さが分かったりするような映像がたくさん使われるなど、工夫が凝らされていました。

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東大安田講堂で行われた一般向けミッション報告会では、なるべく難しい言葉を使わないことを心がけたという古川さん(6月23日) 筆者撮影

──プレゼンがとても魅力的でした。ISS内の活動に関する映像は古川さんが選ばれたと思いますが、どのようなことを考えながら選んだのですか。

古川 大人プラス子供さんにも興味を持っていただけるもの、という観点から映像を選んだのですけれど、「宇宙での仕事の様子」とか伝えたい項目を箇条書きにしてまず挙げて、それぞれの中から候補映像を選んできて組み立てたような形ですね。

単純なものをずっと見てると人間は飽きてきてしまいますので、そうならないようにしました。褒めていただいて、大変嬉しいです。

それから、報告会ではなるべく難しい言葉を使わないように努力しました。お子さんが多いとは聞いていたのですが、予想以上に小学生が多かったので、ちょっと正確性は落ちるのですけれど分かりやすい言葉で頑張りました。

──古川さんが宇宙にいらした時に交信した学生から花束を受け取った時に、「今後もぜひ自分の頭で考えていってください」とおっしゃったことが、とても印象に残っています。どんな思いを込めた言葉だったのでしょうか。

古川 花束を渡してくださった方は、宇宙との交信当時は高校生だったのですが、今は大学生になられているということでした。自分自身が高校生から大学生になったときのことを振り返ってみると、とりあえず目の前の受験を通過しないとその先に進めないということで、目的ではないんですけれど手段として受験はどうしてもやらなくてはなりませんでした。そうすると、何となくやらされてる感がありながら、与えられていることをとりあえずしっかり、効率的に解くということをやらなくてはなりませんでした。

一方、大学生になってからは、自分で課題を見つけていかなくてはならないし、与えられることではなく自分で主体的に考えて、自分なりに知識を咀嚼して知恵にしていき、それを他の人に伝えていかなくてはなりません。それが大切なことだと思ったので、そういう意味と気持ちを込めてお伝えしました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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