コラム

若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙船地球号は大きくて、我々は楽観視してきた」

2023年06月06日(火)17時00分

──若田さんは宇宙飛行士になる前となった後では、地球と人との共存共栄に対する考えは変わりましたか。「こんなことを意識するようになった」というエピソードがあったら、教えてください。

地球って、やっぱり非常に美しいですよね。

宇宙から見ると、圧倒的な美しさを放ってますけれども、地球の環境がどれだけ壊れてるのかっていうのは、例えばアマゾンの地域の森林の伐採とかを見ると、やはり人間の活動が地球環境に大きく影響を与えてるなって感じることはよくありました。

それで、ふと自分の宇宙船(ISS)を見てみると、二酸化炭素除去装置が壊れたりとか、トイレが壊れたりとか、酸素製造装置が壊れてしまったとかが結構あるんですよね。そういうときは、修理するのがもう最優先課題で、我々は宇宙船の中で、いろんなメンテナンス作業とか修理作業を行っていました。「いかに人間が安全に生活していくのは難しいか」っていうのを、宇宙船の環境制御システムの故障を直しながら感じたんですよね。

akane230606_wakata2.jpg

ISSから撮影された日本列島上空 (C)JAXA/NASA

そういう経験をしながら地球を振り返って見てみると、「宇宙船地球号」という言葉もありますけれど、やっぱり地球が本当に大きな宇宙船みたいに感じたんです。僕たちが宇宙ステーションのシステムの保全のために努力していることは、ちょっとでも壊れたらすぐに死に至るようなものだけども、地球は大きいから我々はちょっと楽観視していたのかなと思うんです。

地球も同じように宇宙船であって、その二酸化炭素状況だとか温度コントロールのシステムが破壊されれば、人類の存亡に大きな影響を与えてきます。そういう何て言うのかな、地球が本当に生きているシステム、大きな宇宙船だというイメージを持ちました。

これは宇宙に行って、地球の環境を守っていくことの難しさとか、それをみんなが協力してやらなければいけないっていうようなことを、実地体験を通して感じました。

──宇宙飛行士の若田さんでないとお話できない、重い言葉だと思います。私たちにも、そのような視点を共有していただけて嬉しいです。

※後編:若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙ゴミ処理は日本がリードできる分野」

ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ

ビジネス

主要企業の26年度、営業益12%増を予想 6月から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story