コラム

日本はいちばん門戸が広い? 宇宙飛行士選抜試験を読み解く

2021年11月30日(火)11時25分
宇宙飛行士

体験や成果を外部に伝える表現力・発信力も必要に(写真はイメージです) dima_zel-iStock

<13年ぶりに宇宙飛行士候補者を募集するJAXA──応募資格のうち、学歴と医学的特性を大幅に緩和した意図とは? 各国機関と比較した合格の難易度は?>

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月19日、13年ぶりに宇宙飛行士候補者の募集要項を発表しました。応募受付は12月20日から来年3月4日までで、エントリーシートによる書類選抜と、0次から3次の選抜試験を行います。

JAXAは日本でただ一つの公的な宇宙飛行士の募集機関です。今回は、国際宇宙ステーション(ISS)や、アメリカの主導で計画を進めている月周回有人拠点「ゲートウェイ」での活躍が期待される人材を若干名採用します。合格者のJAXAへの入社は2023年4月、宇宙飛行士に認定されるのは25年3月頃になる見込みです。

応募条件や試験内容は、前回、宇宙飛行士試験を行った2008年から変更があります。募集要項からJAXAが求める最新の宇宙飛行士像を読み解きましょう。

期待される3人目の女性飛行士

今回の募集のキーワードは、"多様性"と"科学コミュニケーション"です。

まず、応募資格のうち、学歴と医学的特性が大幅に緩和されました。

前回は、応募者は理学・工学など自然科学系の4年制大学卒以上で3年以上の実務経験(大学院の修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の経験ありとみなされる)が必要でした。

今回は、学歴は問われず、文系・理系のどちらの人でも応募が可能です。「3年以上の実務経験があること」を求められる部分のみ変更がありません。実務経験は、一般には「社会人経験」を示します。年齢制限はありませんから、中学卒業後、3年間働いた人も応募できることになります。

もっとも、第0次選抜では、英語試験に加えて、大学教養課程程度の一般教養試験と国家公務員採用総合職試験(大卒程度)相当の科学分野の試験が課せられます。学歴や専門分野による制限を撤廃して間口を広くして、試験で実力や適性を判断する態度を徹底するということでしょう。

次に、前回は158~190センチだった身長条件は、149.5~190.5センチになりました。体重や泳力など他の医学的特性の多くも、「身体的特性によって活動が制限される場合がある」「泳力を訓練時に習得する」等の表記になり、応募時の前提条件ではなくなりました。

今回の応募要項には「女性の活躍を推進する」と特記されています。

現在、現役の日本人宇宙飛行士は7名全員が男性です。前回は応募者963名のうち、女性は124名(13%)でした。今回、JAXAは女性応募者が30%になることを目標にしています。

日本人女性の平均身長は158cmです。身長条件の緩和は、身長が足りなくて応募できない女性を減らすための方策とも考えられます。実は、女性の積極的な登用のために「女性枠」を作ることも検討されましたが、宇宙飛行士の採用人数は数名と少ないことから見送られました。けれど、向井千秋さん、山崎直子さんに続く3人目の女性宇宙飛行士誕生が期待されていることは、間違いなさそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀、銀行の自己資本比率要件を1%引き下げ

ビジネス

アングル:日銀利上げと米利下げ、織り込みで株価一服

ワールド

ロ軍、ドネツク州要衝制圧か プーチン氏「任務遂行に

ビジネス

日経平均は横ばい、前日安から反発後に失速 月初の需
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 3
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 4
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 10
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story