コラム

世界を引っ張るリーダーが日本で生まれづらい理由

2017年10月20日(金)16時40分

いま話題の、首相が持つ議会の解散権も影響しているかもしれない。世界で類をみない、ほぼ日本独自の制度だ。似たような制度だったイギリスでも法改正を行い、今は議会の3分の2の賛成票を得ないと、つまり野党の協力がないと解散できないようになっている。日本のように首相が独断で解散できると、体制維持がとてもしやすくなると考えられる。

今回の衆議院選挙の大義として、「国際情勢が不安定だから、国難解散だ」と挙げているが、海外からの脅威があるときにこそ、国民が政権交代を望まないのが原則。政局的に都合のいいタイミングなのは、偶然でしょうか。これでは、今後「国難がチャンス」と考えてしまう可能性もある。そうすると、野党が乱れているときも「国難」だったり、与党の支持率が上がっているときも「国難」とみることもできるわけでしょう。ある意味、選挙制度自体が国難といってもいいかもしれないね。

こんな与党に有利な制度下では、当選を目指す優秀な政治家が与党に集まるのは当然の結果。そこで、与党の中で活発な議論が生じればいいが、昨今、自民党内の言論は多様性に欠けていると感じる。意外にも、これも選挙制度の負の産物かもしれない。

ノー・マンがいない

昔は一党一強であっても、「与党内の野党」と言われる派閥が存在していた。しかし、1996年から小選挙区制が導入され、1つの選挙区に各党から1人だけ立候補することになり、これをもって、党内の統率はとてもしやすくなった。つまり反対意見の排除がしやすくなり、イエス・マンばかりじゃなくても、ノー・マンがいなくなったようだ。

ターニング・ポイントとなったのはいわゆる小泉劇場の時。2005年の衆院選で郵政民営化に反対した「造反組」が自民党から離党したり除名処分を食らったりした上、それぞれの選挙区に自民党から「刺客」となる対戦候補が立てられた(そういえば、当時の刺客の1人だった小池百合子がいま自民党を刺し返そうとしているね)。
 
それ以降、個々の議員が党幹部と歩調を合わせないと処分される統治体制になった。16年の都知事選でも小池を応援する自民党区議が除名されたね。いまや、「首相の意見はみんなの意見」の時代になったようだ。そんな状況だと、国民を1つにまとめることや国際社会を引っ張ることよりも、とりあえず1つの選挙区で勝って、同じ政党のみんなと仲良くすることが優先される。当たり前だ。それが政治家という職の安泰につながるから。でもやはり大物のリーダーが育ちづらい環境ではないだろうか。

世界のリーダーとならないのは、外交姿勢も関係しているかもしれない。日本は戦後からアメリカの兄弟分的な立場を守ってきた。例えば唯一の被爆国として、「核不拡散」を信憑性をもって世界に訴えられるはずだが、アメリカの核の傘の下、その運動を抑えめにしている。大事な支え役となっているが、リーダーシップは発揮できていない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準 労

ビジネス

米ADP民間雇用、4月は19.2万人増 予想上回る

ビジネス

EXCLUSIVE-米シティ、融資で多額損失発生も

ビジネス

イエレン米財務長官、FRB独立の重要性など主張へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story