コラム

スマホ越しの悪魔祓いもあり 現代の「エクソシスト」のリアルに迫る

2017年11月17日(金)16時30分

フェデリカ・ディ・ジャコモ監督『悪魔祓い、聖なる儀式』(c)MIR Cinematografica – Operà Films 2016

<これまで外部に閉ざされてきた悪魔祓いの儀式。悪魔祓い師と悪魔祓いを求める信者の姿の向こうに今が見える>

現代のイタリアで前時代的な儀式と思われていた悪魔祓いが広く普及していることは、だいぶ前から伝えられていた。ヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ部門最優秀作品賞に輝いたフェデリカ・ディ・ジャコモ監督『悪魔祓い、聖なる儀式』は、そんな現代の悪魔祓いに迫るドキュメンタリーだ。

女性監督ディ・ジャコモは、シチリア島のパレルモにある教会で行われている悪魔祓いの儀式を映し出すだけではなく、悪魔祓いを求める何人かの信者とその家族を追い、彼らの日常にも目を向ける。この映画にはナレーションもテロップもない。その解釈は観客に委ねられているが、構成や編集からは独自の視点が浮かび上がってくる。

押し寄せる多くの信者たち

映画は儀式のシーンから始まる。教会の一室で、こちらに背を向けて椅子に座る女性に対して、神父が祈りの言葉を唱え、聖水を振りかけ、首にかけた紫色のストラ(頸垂帯)を女性の頭にかける。すると彼女が呻き声をあげ、「彼女は私のものだ」と叫ぶ。その光景は、私たちが映画『エクソシスト』などから想像する悪魔祓いに近い。しかし、そんな儀式のイメージはすぐに揺らいでいくことになる。

私たちが次に目にするのは、教会の受付で集まった信者たちが、神父との面会の予約をめぐって揉めている光景だ。教会側は、パレルモ以外の遠方から来た信者を優先すると説明するが、早朝から教会に来て待っていた信者たちは納得できない。この教会は、押し寄せる多くの信者たちに対応できなくなっている。

その後に始まるミサも、明らかに普通のミサとは違う。神父は、信者のなかに憑依された人が数人含まれているが、兆候が現れても祈りをつづけるようにと前置きしてミサを始める。神父が悪魔を追い払うための祈りの言葉を唱えると、実際に何人かの信者が呻き声をあげたり、暴れ出したりする。すると他の神父や助手がそんな信者に駆け寄り、十字架をかざす。

そして、もっと驚かされるのが、電話による悪魔祓いだ。神父は、電話の向こうから冒涜的な言葉を吐く信者に対して祈りの言葉を唱える。この神父にとって、そのような悪魔祓いは必ずしも珍しいことではないように見える。なぜなら、自ら儀式に区切りをつけて、相手に「よいクリスマスを、君の夫にもよろしく」と告げて、電話を切るからだ。

悪魔祓いから解放の祈りへ

では、ディ・ジャコモ監督は、こうした奇妙にも見える儀式を通して、なにを掘り下げようとしているのか。そこで参考になるのが、トレイシー・ウイルキンソンがジャーナリストの立場からイタリアにおける悪魔祓いに迫った『バチカン・エクソシスト』だ。本書ではまず、最も有名なエクソシストとされるガブリエーレ・アモルス神父の話を足がかりに、悪魔祓いの儀式が検証されていくが、そこに以下のような記述がある。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIの基盤モ

ワールド

米がイスラエルに供給した爆弾、ガザ市民殺害に使われ

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落

ビジネス

PIMCO、金融緩和効果期待できる米国外の先進国債
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story