コラム

【EVシフト】数多のEVメーカーが躍動する中国市場、消えた日本企業

2020年11月18日(水)18時20分

しかしそうした逆風のなかでも、テスラが上海で生産する「Model 3」は発売以来、ブランド別で新エネルギー車市場トップを独走した。2020年1月に購入補助金が継続されることになり、6月には各自動車メーカーに対して新エネルギー車の生産比率の引き上げを求める政策が出た。こうした政策の後押しもあって、新エネルギー車の販売台数は2020年7月から前年同月比でプラス成長を記録するようになったが、テスラの売れ行きは引き続き好調で、1月から10月までの累計で9万2000台余りも売れた。

Marukawa201118_EV.jpg

上の表には中国における2020年1月~10月の新エネルギー車販売台数で上位のメーカー17社を示している。ちなみに「新エネルギー車」とは電気自動車、プラグイン・ハイブリッド車、燃料電池車を指すが、現状ではその大半が電気自動車である。

この表に出てくるメーカーのうち、GM、VW、BMWが企業名に入っているのは、それぞれ名だたる欧米メーカーの合弁企業である。また、むかしからの国有自動車メーカーも入っている(上汽、広汽、一汽、北汽)。それ以外は国際的には「スモール」としか言いようのないローカルな自動車メーカーばかりである。

時価総額がトヨタを上回るテスラはもはや「スモール」とは言えないかもしれないが、既存の自動車メーカーではない新興勢力ということで敢えて「スモール」と呼びたい。

注目株の蔚来汽車(NIO)

中国では、2014年からテスラの成功にあやかろうと大勢のベンチャーがEV生産に乗り出してきた。その数は最盛期には300社あったとも600社あったともいわれる。多くはネット業界から転身した企業家によるもので、ユニークなアイディアをひっさげてベンチャー・キャピタルにアピールし、最後は株式の上場を狙うものだった。投資家へのプレゼンテーションにばかり力を注いでいたので、「パワーポイントによる車作り」と揶揄された。

その多くは途中で資金が続かなくなったが、いまもなお中国にはまだ40社近くのEVベンチャーが生き残っている。

そのなかの一番の注目株は蔚来汽車(NIO)である。もともと自動車販売サイトを運営していた企業家が、テンセント、シャオミ、京東といったネット大手の協力を得て2015年に創業した。1台470~780万円という高級路線を貫き、ベンツ、BMW、アウディがライバルだと豪語する。車のバッテリーをレンタル制にして、バッテリーがなくなったら充電済みのものと入れ替えるBaaS (Battery as a service)というビジネスモデルを特徴とする。車は自社で作るのではなく、他の自動車メーカーに生産委託するというのもIT業界出身の経営者らしい。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story